医薬品開発における非臨床試験から一言【第52回】

 

薬物相互作用試験の戦略


一般的な新薬の研究開発プロセスは、10年~15年のスパンで取り組んでいます。最初は基礎的な研究にとりかかり、ターゲットとする疾病に関する情報を集め、関連する生理化学・生化学等の科学的な位置づけを探ります。そして、非臨床試験を含む探索研究を行います。有効な低分子化合物・タンパク質の発見と最適化を行い、「創薬」を意識した安全性、有効性を検討します。

ある時期からは、非臨床試験と並行して臨床開発のステップを立ち上げて進み、有効性や安全性をヒトにおいて検証します。さらに承認申請を経て、市販後臨床研究により、本質的な有用性の確認を行います。また、臨床において新規適応症を探ります。今回は、基礎から応用研究、そして創薬の実践における薬物相互作用(DDI)試験の戦略をまとめます。

DDIの実態を機構別に分類すると、薬物代謝に関与するものが約1/3を占めており、次に薬力学(薬理作用)に関する場合も多くみられます。ただし、ガイドラインでは後者のDDIはガイドライン化が難しいために省かれています。一方、吸収・排泄・分布などの分野でのDDIは比較的に少ないようです。代謝酵素別では、CYP酵素関連が圧倒的に多く、その他の代謝酵素におけるDDIの事例は少ないようです。また酵素誘導と、酵素阻害の比較では、酵素阻害の事例がやや多いようです。

DDI評価の非臨床試験のタイミングについて、一般的には、CYP酵素分子種の発現系を用いたin vitro酵素阻害研究が先行し、ヒト肝細胞を用いたin vitro酵素誘導試験は、実施タイミングが少し遅れます。ただし、被験薬の代謝過程に誘導されやすいCYPの寄与が大きいと推定されると、早いタイミングで酵素誘導の探索試験を行っても良いと考えます。

DDIは、被験薬が相互作用を受けるか、与えるかになります。ここでは、被験薬が相互作用を受ける場合を議論します。被験薬が経口薬の場合、経口投与時のクリアランスに対するDDIを生じる経路のin vivoにおける寄与率(Contribution Ratio、CR)が重要です。被験薬の主要消失経路が代謝の場合は、寄与率の大きい酵素分子種を特定し、その程度を解明します。In vitro代謝試験によるCRの推定では、ヒト肝ミクロソーム等において当該酵素で代謝される割合fm(fraction metabolized)を代用します。

代謝過程の寄与率から臨床DDI試験実施の判断を行います。In vitro代謝試験及び臨床薬物動態試験(マスバランス試験、静脈内投与試験)から、主要消失経路のin vivo寄与率(最大の推定値)を算出します。特定の薬物代謝酵素による消失が、被験薬の消失全体の25%以上と推定されると、指標薬を用いた臨床DDI試験の実施を考えます。被験薬が経口剤であっても、静脈内投与試験により、全身クリアランスにおける肝代謝及び腎排泄の寄与が評価可能です。臨床DDI試験では、可能な限り最初に強い阻害薬を用い、被験薬の薬物動態の変化の程度を観察します。

代謝過程の寄与率から臨床DDI試験を行わない場合について示します。In vitro代謝試験及び臨床薬物動態試験により薬物相互作用がない、又は相互作用の程度が軽微だと、被験薬の消失全体における当該酵素の寄与が小さいと推定され、臨床DDI試験を実施する必要性は低いと考えます。

強い阻害薬を用いたDDI試験から、用量調整が必要と考えられた場合は、臨床的な併用を考慮し、他の阻害薬の影響を臨床DDI試験で評価します。また、通常の臨床試験の中での併用症例のデータを検討します。酵素誘導の指標薬との臨床DDI試験は、阻害薬との臨床DDI試験から、モデリング&シミュレーション等により臨床的に問題となるDDIが生じるリスクがあると判断された場合に実施します。
 

 

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