医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第51回】

2024/03/15 医療機器

今回は、分解プロセスを掘り下げて考えてみたいと思います。

 

身体の中で分解する材料

 

 生体内で吸収分解する材料に関して、生分解性に関する情報を示すことが求められることを前回お話し、分解様式の概要をお示ししました。
 今回は、分解プロセスを掘り下げて考えてみたいと思います。

 まずは金属材料の中で、研究開発が進んでいるマグネシウム/マグネシウム合金についてです。整形外科領域のピンなどへの利用が研究されておりますし、血管内ステントとして欧州では実利用されています。
 マグネシウムは、生体内に存在する元素であり、軽量であり弾性率も骨に近いことから、生体材料としては有力な候補です。アルミニウム合金も同様なのですが、アルミニウムイオンによる神経系の影響などの為害性が話題になっているため、そのような懸念がなく、分解しやすい合金を作ることができる金属元素としてマグネシウムが着目されたと思われます。
マグネシウムは、水があると分解が始まります。

        Mg + 2H2O → Mg2+ + 2OH- + H2

 生じたマグネシウムイオンは、一部は体内に吸収されるでしょうし、ヒドロキシイオンもありますので結合して水酸化マグネシウムや、近くにある炭酸イオンと結合して炭酸マグネシウムという水に溶けにくい塩になることも考えられます。
 また、特に塩化ナトリウムを構成する塩化物イオンがあると分解しやすいようで、体内には、このイオンは多量にありますので、分解を受けやすいことを示しています。

 このように水分があり、加えて塩化物イオンがあると一層のこと、分解していくということがマグネシウム合金の特徴です。そして、上記の化学式でもわかるとおり、分解時に水素が発生することも特徴的です。
 体内でマグネシウムが溶解する際には、そのスピードを制御することにより、水素の発生量をコントロールすることができますが、水素の発生自体をなくすことは困難です。水素と言えば、引火すると爆発する気体ですが、体内では火花が散るような環境にはならないので、爆発リスクはさすがに無視してもよいかと思いますが、気体であることから、場合によっては局所に水素の気体が溜まるかもしれません。
 体内では、病的状態でない限り気体は存在しません(消化管内や膣、子宮内、膀胱内は体外と連結していますので、空気が入っていますが、体外とつながっているという観点で体内とはみなしません)。そのような環境で水素という気体が発生し、血管内に入ったらどうなるのと思われるかもしれません。血管内には血液があるのみで、気体はもちろんありません。
 もし、血管内注射で空気を注入すると、肺胞に達して血管塞栓を起こしてしまい、呼吸困難になります。ただ、問題になる量はヒトの場合で10mL以上と言われますので、血管内や出血している血管近くで水素ガスが10mL以上発生して血管内に吸い込まれるような環境でない限り、そのような心配は杞憂だということです。

 それから、いつもない場所、例えば皮下に気体が溜まったらどうなるのか不思議に思われる方がいらっしゃるかもしれません。私もよくそんなことを思っておりました。
 詳細なメカニズムは不明ですが、気体は比較的早くどこかに吸収されてなくなってしまうようです。
 例えば、中空のチューブを皮下に埋植してみると、一週間もすると内腔には、ゼリー状の組織や毛細血管などが入り込んで気体部分は置換されています。専門的には、「補腔性の細胞浸潤」と申しますが、要は腔所をそのまま放っておかないというのが生理的反応のようで、組織液が流入し、線維芽細胞が入り込んでコラーゲンを分泌し、毛細血管が増殖してきて、マクロファージが浸潤しているような像に変化します。
 それではそもそもそこあった気体はどこに行ったのかということになるのですが、不思議と跡形もなくなっております。水素の場合も同様で、実験的にマグネシウム合金を埋植して水素を発生させても、しばらくするとなくなってしまうようです。
 

 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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