医薬品委受託製造に関する四方山話【第5回】

2013/08/26 製剤

8.契約に至るまでの情報交換
 前回は、外製することを決めた後のCMO選定について、選定基準例などを示しながらお話しましたが、それは、委受託双方での情報交換が正しくタイムリーにできていることが前提でした。しかし、実際にはその情報交換が十分でなかったために、契約後にトラブルとなるような例もあるようです。そうならないよう、しっかり相互に情報交換し、お互いの要望、事情を理解するためのヒントになるような話を少ししておきたいとおもいます。
 通常、委託先絞り込みの過程で行う情報交換の方法としては、次の2つのパターンがあります。まず、Non-Confidentialレベルの情報交換から可能性を調査した後、秘密保持契約を結んで詳細調査を行うパターン1と最初から秘密保持契約を結んで詳細検討を行うパターン2です。初めての取引の場合にはパターン1、既に取引のあるCMOの場合にはパターン2が多いとおもいます。パターン1は、Step 1として薬物の薬効・毒性情報、剤形、必要な製造機器、納期、年間製造量などの一般的な情報を示し、できるかできないかを見極めてからStep 2として詳細プロセス情報を開示し、加工費を見積もるという手順です。一方、パターン2は、既存の取引の中で互いの状況を理解していることから、いきなり秘密保持契約を結んで加工費を含めた受託可否を検討するケースです。いずれにしても最近は、委受託可否に必要な情報としてどのような情報を互いに伝達すべきか(受領すべきか)項目として決めている企業が委受託双方に多いようです。受託側の情報としては、所有設備や保有技術、得意技術、可能剤形等が考えられますが、これらはホームページやパンフレット、冊子などで開示している場合が多いのですが、キャパシティーや設備スケールまでは外部にはわかり辛いものです。さらに、もっとわかり辛いのは納期に間に合うかどうかといった基本的なことや委託者として許容できる技術、品質レベルかどうかの個別事情です。そのために委託者は、公開されている情報にプラスして様々な方法で確認作業を行っていきます。質問票を送付して回答をもらう方法、現地訪問(見学若しくは査察)し担当者に直接ヒアリング、必要な文書のレビュー、現場の見学等でひとつひとつ確認していく方法などです。一方、受託側は、委託側が開示した限られた情報範囲の中で、受託可能かどうかをタイムリーに判断し回答することが求められます。まず、Step 1としての技術、キャパシティー、納期等の観点からの受託可否判断は、どの受託業者も比較的タイムリーにできるとおもいます。その次のStep 2の詳細プロセス開示後の見積もりで結構大きな壁にぶつかります。原薬、製剤、包装のどの工程か、品目数とかプロセスの複雑さ等にもよりますが、通常はその検討期間として2週間~4週間程度といったところでしょうか。まず、委託者から開示された情報を元に自社での想定製造フローを構築します。次に想定フローでの原材料、編成、工数、設備投資、試験費用等から見積もりをしていくことになります。一回で意思疎通ができる場合もありますが、多くの場合、その過程で委託者と何らかの協議や確認が必要になります。受託者側で設計したプロセスが委託側の意図に沿っているか、大きな考え違いをしていないかということです。ここは、しっかりやっておかないと算出した見積もりが全くその後の将来実態に合ったものではなくなる可能性もあるので要注意です。委託側の製造必要量に大きな幅がある場合などがその典型例で、ある量を超えると受託側のキャパをオーバーする、すなわち新規の投資が必要になるといった場合には、その時点で加工費が変化しますので、場合分けの見積もりが必要になります。また、どこの市場に出すのかも重要確認項目です。個人的には、この項目はStep 1で確認すべき項目と考えています。なぜならそのためのGMP対応や薬事対応には、まだまだ市場地域個別の違いが存在するからです。また、ロットサイズやキャンペーンサイズも重要なファクターです。受託側で変更しても大丈夫だろうという項目が、品目の制約上、変更不可であることもあります。
 表3に錠剤の製剤工程・包装工程委託の際の初期評価(前述したStep 1とStep 2を含むFeasibility Study)に必要な製品情報の例を、表4に受託側から委託側への回答例を示しますのでご参考にしてください。
 
表3 錠剤の製剤・包装委託先選定に必要な初期情報例(委託⇒受託)


表4 受託側から委託側への回答例

 
 さて、委託者から受託者へ開示されるべき品目情報で、しばしば困ることがあります。特にそれは、開発段階の治験薬製造に関する委受託の場合に多いのが特徴です。どのような情報かおわかりでしょうか? それは、その品目の薬効や毒性・安全性情報です。Phase 3用治験薬ともなれば、それまでにかなりの非臨床、臨床試験データが蓄積されており、MSDS(Material Safety Data Sheet)も充実しているとおもわれますが、Phase 1用治験薬ではどうでしょう。基本的にヒトでの有効性・安全性はこれから調査・検討していくのであり、多くは動物試験の結果、それも1か月毒性試験の結果ぐらいが最大のものとなります。そのような品目を受託するためには、委託者からのできる限り詳細な情報が必要ですが、一方では開発品特有のData Securityに関する問題があり、そのような"超"秘密情報をいくつもの委託先候補に開示するのは、通常ためらわれます。こういったことも治験初期は製薬メーカー自身が製造することが多い一因になっているのでしょう。受託者は、基本的に製造設備を空けて待っているのではなく、既に何らかの品目を製造している中で、新規品目を追加することになるので、作業者の安全対策、環境漏えい対策とともに洗浄許容リミットの設定など非常にセンシティブな問題が介在することを常に頭に入れておき、必要な情報を入手するよう委託者と交渉しなければなりません。一方で、化合物の化学構造を見て、類縁化合物のデータを参照しつつ安全性や生分解性などを考察し、最小限の動物試験のデータを総合して判断していくようなシステムを構築しておくと便利かもしれません。受託業として、既存の医薬品を製造するのみならず、いい薬になる可能性のある開発品の製造や製造法開発にも貢献していきたいと思うのは私だけでしょうか。
 

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執筆者について

笠井 隆行

経歴

個人コンサルタント
1985年に塩野義製薬(株)入社 医薬品物性研究、分析法設定、国内外申請資料(CMCパート)作成、原薬製造プロセス研究に従事、
1997年から2年間の米国Schering-Plough社でのGlobal GMP, CMC開発の海外研修後、CMC Office長、治験薬製造室長を兼務
2006年に武州製薬(株)代表取締役社長就任、2012年に日本CMO協会会長(4年間)
2016年に富士製薬工業(株)副社長 生産統括本部長、富山工場長を歴任、
2017年からタイOLIC社 Managing Directorを兼務
2022年にシオノギファーマ(株) 信頼性保証本部長、第一生産本部長を歴任
2024年3月:シオノギファーマ(株)退職

出身地 大阪

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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