新・医薬品品質保証こぼれ話【第34話】

医薬品の安定供給と有識者検討会“報告書”。
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
医薬品の安定供給と有識者検討会“報告書”
“医薬品不足”は深刻な状況のまま、三年目の夏を迎えています。ある医療系サイトの情報によれば、最近のアンケート調査の結果、勤務医の67.5%、開業医の77.4%、薬剤師の96.2%が医薬品不足を感じているとの回答が得られたとのことです。この問題に関しては、改善に向けて厚生労働省が主導する有識者による検討会「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(以下、「有識者検討会」)が、2022年8月末から今年(2023年)6月の間に13回開催され、6月9日付けで検討の成果として“報告書”が作成され、改善に向けての様々な提言がなされています。
一方、医薬品不足を招いた主な原因の一つとされる、製薬企業、特に後発医薬品の製造所における違法製造等への対策に関しては、各企業においてGMP省令の遵守、品質保証体制の強化など、品質とコンプライアンスの確保に向けて整備が進められています。中でも、“製造販売承認書と製造方法や試験方法の実態との齟齬”の問題を重視し、行政の指導の下、鋭意、関連業務の実態に関する点検と改善に向けての必要な対策が講じられているものと思われます。
このように、医薬品不足解消に関しては、それぞれの立場に応じて必要な対応がなされていると思われますが、冒頭のアンケート調査結果が示すように、依然として改善の兆しが見られていないのが現状のようです。この状況下、この問題の原因や解決策に関して、引き続き、製薬業界、薬剤師会、行政、大学など関係の各方面から意見や提言がなされていますが、それらの内容はこれまで各界から示されている内容と変わりないようです。
本件の原因や改善対策に関する考え方や提言が有識者検討会の“報告書”に集約されていることを考えると、いま求められているのは、この報告書に示されている提言内容を受けて、次のステップに駒を進めること、つまり“医薬品不足解消に向けて只々具体的な改善活動を実行すること”であり、そのためには様々な立場から支援も必要になってくるでしょう。逆に、この段階において、すでに示されている内容と類似の発信が繰り返される状況は、この問題の解決に向けての動きに際立った進展がないことを示唆することにもなります。
要は、今もっとも重要なことは、問題解決に向けての具体的な“行動”そのものであり、関係者に求められる意見も、医薬品不足解消に向けての個々の対策を的確に進めるための“行動”に有益となる、より専門的で具体的な見識や支援にほかなりません。“報告書”を単なる報告書で終わらせないためにも、このことが必要です。
“医薬品不足”は今や常態化し、マスコミ報道からも遠ざかり、時が進むにつれて単なる“社会現象”と受けとられかねない状況にありますが、数千品目もの医薬品が三年にも及び市場に不足するという状況は、本来異常であることを改めて認識する必要があると思われます。その上で、この重大な問題の解決に向けて、有識者検討会でとりまとめられた“報告書”の提言を基礎に、官民協力の下、“スピード感をもって”必要な対策を講じることが、今もっとも求められているのではないでしょうか。
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