ファーマデジタル化の問題点 -第2回:進歩の妨げとなるもの

ファーマデジタル化の問題点 -第2回:進歩の妨げとなるもの

医薬品製造業におけるデジタル化(DX)とPharma 4.0の進展はあまりにも遅い。電子システムは効率と品質を劇的に改善できるが、その導入を妨げているのは何か。そしてどのようなアプローチと技術が、真の変化を可能にするのか:

David Margetts, Factorytalk; March 2023. 
当記事は、筆者の経験に基づく意見です。

本記事は、製薬会社のデジタル化に関する記事シリーズの第二回です。今回は品質と効率向上を可能とするITシステムの導入において、何が業界の足かせなのかを論じます。

何が足かせになっているのか?
GxP分野の IT導入を遅らせる要因は、この記事だけではカバーしきれないほど数多あります。今回はポジティブな観点で、これまでの仕事の経験から見出された主な課題を見てみます。製薬分野の製造工程のデジタル化を加速し、Pharma 4.0への道を切り開くと期待ができる、新しいアプローチやテクノロジー、トレンドについて考察します。

GxPソフトウェアの導入に関する現在の課題:

 -    コストと価値の比較 
 -    失敗のリスクと変革文化の欠如
 -    CSVとGMPの解釈のしがらみ
 -    レガシーソフトウェアとインターフェース技術の展望

コストと価値の比較:
製薬企業向けのソリューションは、レベル2やレベル3の電子記録を置き換えるために、初期サービス、ライセンス、サーバーハードウェア、メンテナンスについて、数百万ドルかかるのが一般的です。また、設計、設定、構成、設置、保守に高度なスキルと経験を必要とするだけでなく、実装には専任の労働資源を確保する必要があり、数カ月から数年もかかります。しかし、世界中のほとんどの製薬企業では、デジタル化チームにやる気と能力があったとしても、このような予算は社内承認を得るにはあまりにも高額です。

中小企業、利益率に悩むジェネリック医薬品企業、新しい治療領域に取り組む企業などでは、GxP対応の ITシステムの導入が高コストであるという問題は、より顕著となります。新しいバイオファーマや細胞・遺伝子治療薬の施設は、まだ市場性や収益性の見通しが立っていない段階の新薬や治療法に依存したビジネスプランに基づいて構築されています。臨床試験や低スケールでの初期生産など、この段階の組織や施設は、非常に無駄がなく、俊敏で動きの速さを重視します。たとえ、ITに多額の予算を割り振れたとしても、必要な数のIT専門職の雇用は難しいでしょう。また、ITの必要性が十分に理解されていない段階では、ITシステム導入の所要時間は、設備建設と試運転を合わせた期間より長くなる可能性があります。

Q.変革に必要なものとは?
シンプルかつ迅速に実施可能で施設設計に組み込める、安価なソリューション


失敗のリスクと変革文化の欠如:
残念ながら、製薬会社におけるITプロジェクトはあまり評判がよくありません。主要な関係者や上級管理職は、プロジェクトの失敗可能性の影響から、必要なリソースを投入する判断に慎重です。また、システム導入に成功したものの、バグや問題によって混乱が生じる、アップグレードが容易でない、運用上の必要性に合わない、監査で頭を悩ませる、といったケースもあります。多大なコストと労力を要する大規模なITシステムは、ある程度ですが、ビジネスを混乱させる可能性があります。しかし反復的導入手法をITプロジェクトに適用すれば、最終的にプロジェクトの完全な失敗のリスクを回避しつつも、コンセプトを証明し、導入経験を積むことが可能で、システム導入の失敗「ビッグバン」を挽回しつつ関連するコストをかけずに、企業は進歩する手段を獲得可能です。

Q.変革に必要なものとは?
新たなデジタルツールの探索、試行、実験が低いリスク設定下に行えるチームを結成できるシニアマネジャー。


製薬業界は、本質的には変化に強い環境にあります。製品や製造プロセスの詳細は、早い段階で当局に提出され、確定の後、施設査察の基礎として使用され、GMPや記載された規格および管理に対してチェックされます。製薬業界では、「壊れていなければ変えない」という考え方が主流で、信頼性と一貫性が品質の基礎と考えられています。製薬会社は、世界中の人々に高品質の製品を提供することで大きな成功を収めており、まさに人類にとって偉大な産業関連の物語の1つとなっています。しかし、製薬会社は保守的で静的な思考に陥りがちであり、柔軟性や適応性を有するプロセスや、製品の理解を深めることが出来る新しい機能について、実装や実践を選ばないことで近代化と進歩が妨げられ、実際にリスクが増大する可能性があります。

2004年9月、米国FDA CDERのAjaz Husain、Ali Afnanら[2]は、製品品質に寄与するどころか逆効果であると明らかな場合でも、業界を変革し得るプロセス分析技術(PAT)を採用するよう呼びかけました。これは、定まった規格に固執しすぎることなく、計測とフィードバックの制御・検証を実施することにより、規格自体を柔軟に運用する道筋として、PATの採用を呼びかけたのです。

この方針を継続する流れで、2011年FDAはプロセスバリデーションの一般原則と実践のためのガイダンス[3]で、継続的プロセス検証を明確に宣言しました。2019年以降、ISPEのPharma 4.0 subgroup on Validation 4.0 [4]は、バリデーションと検証の分野で大いに必要とされるイノベーションを促進しています。

**参考資料: Pharmaceutical Engineering、2021年4月

Validation4.0の重要な側面は、上記のように製品ライフサイクル全体からのデータを使用して、常に制御されている状態と証明可能にすることです。そして、ICH Q13 [5]などの連続製造の検証に関する最新の考え方と組み合わせることで、新規治療法の製造に必要な柔軟性の提供が可能となります。今こそ、製薬業界は変化への消極的な姿勢から脱却し、FDAが数十年にわたって奨励してきたことを取り入れる対応を行う時です。

Q.変革に必要なものとは?
制御やバリデーションを革新的手法で実施することを、継続的に催促する規制環境。

 

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます