理系人材のための美術館のススメ【第1回】

なんの得もないけど美術館に行きませんか。
「なんの得もないけど美術館に行きませんか」
美術館が好きです。
コロナ禍で多少は減ったものの、最近はだいたい年間で3~40程度の展覧会に足を運びます。友人と一緒のこともあれば、仕事帰りなどは一人でふらっと立ち寄ります。仕事で多忙になった時も、却って館内を歩きたくなってしまい隙間時間を縫いつつ来館、頭をリセットして帰ってくる――そんな生活が、振り返ってみるとずいぶん長く続いています。
ここしばらく、再生医療分野での施設管理や文書管理について連載をしてきましたが、ここらでちょっと息抜きがてら「理系業界向けに美術館のご利用をプッシュしてみよう」というのが本コラムです。どちらかというと、美術館など滅多に足を運ばない方向けかもしれません。
ということは、昨今流行りの「ビジネスに役立つ」教養系なのかというと、おそらくそうではありません。なぜなら私自身が美術系のうんちくがいまいち苦手だからで、ゆえに
「いいじゃん別に現代美術見るのに世界史もルネサンスも印象派も知らなくて問題ないし、マネだのモネだのモローだのコローだのの紛らわしい名前の区別がつかなくたって、どうせ絵を見れば全部違うんだからさー」
…くらいの緩さの話しかしないということです。意識は限りなく低いです。
つまり、読んでも全然美術に詳しくはなりませんし、素養が磨かれることもありません。
そもそも一時期ビジネス書で流行ったアート思考系の話は、まあ「仕事に役立つアイテムのひとつとして今度はアートでどうだ」というストーリー自体は理解できるのですが、実際自分の周辺に「大変に優秀なビジネスパーソンでかつ海外での仕事もざらだが、美術芸術の素養などかけらもない」という人たちのほうが多いため、実効性がいまひとつ分かっていません。
「いや、人間の作るモンっておしなべて興味がわかなくてさ!」
などと言って、アウトドアまっしぐらに山を駆け抜けた挙句、コロナ禍に乗じて都内のお山に引っ越すようなビジネスパーソン(実在)にアート思考は無関係で、むしろ脳内麻薬が出ているだけでしょう。それでも彼らはなんの不都合も不自由もなく生きています。
つまり美術館に行くなどというのは「やらなくてもなんの問題もないこと」であり、楽しければやるのは勝手で、楽しくないならやらなくてもなんの損もないことであるわけです。映画鑑賞とか読書とか音楽鑑賞と同列みたいなハイソな雰囲気がありますが、女装趣味とかガンプラ作成とかオカルト好きとかと並べても別にいいと思います。趣味なので。
というわけで、本コラムはなにかの役に立てるというよりはもっと緩く、ふわっと、単に楽しくお散歩する先として、美術館ってとってもオススメできますよ、というのが趣旨です。
とはいえ、仮にも人様にご利用をプッシュするわけですし、そもそもなぜそんな意識低い系の話のタイトルに「理系人材のための」がつくかというと、この「緩くふわっと楽しむ見方」が、明白に理系業界のお作法と異なるために、ものすごく脳内スイッチが切り替わるからです。
気分転換どころじゃなく脳内で強制リセットがかかるなどというのは、試験計画書を詰めている最中の頭には、滅多に起こることではありません。一度体験するとクセになるほどに、これは役に立たないながらも独特の楽しさです。
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