医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第19回】

2021/07/16 医療機器

医療機器の刺激性について解説をする。

刺激性試験の選び方

 刺激性試験には、医療機器が接触する部位に応じて、いくつかの試験方法が挙げられていることを前回お示ししました。

 評価を考える際は、医療機器の適用部位に応じた刺激性試験結果を用いればよいのですが、どの部位が刺激性物質に対して敏感に反応するでしょうか。
 比較的よく用いられる皮膚刺激性、皮内反応、眼刺激性、口腔粘膜刺激性について考えてみたいと思います。
 例えばお酢を、皮膚に塗る、皮内に注射する、眼に点眼する、または、口に含むのうち、どれが一番つらいと思われますか。皮内という言葉は聞きなれないと思いますが、文字通り皮膚の中という意味で、皮下の場合はシート状の皮膚を貫通した部位であるのに対して、皮内は皮膚の間の主に真皮と呼ばれる部分のことです。子供の頃、ツベルクリン反応の確認のため細くて短い注射針で注射された記憶がある方が多いかと思いますが(最近は廃止されているようです)、これは皮内に投与する注射法です。解熱剤などの注射で汎用される皮下注射の場合は速やかに皮下組織に拡散していくのですが、皮内の場合は真皮層のコラーゲン線維間に注射しますので、比較的吸収は緩慢で、多量投与はできないという特徴があります。
 さて、酢を注射されるのは勘弁して欲しいと思われる方がほとんどだと思います。次いで点眼されるのも絶対に嫌です。皮膚に塗るか口に含むかは意見が分かれそうですが、口に含むと皮膚よりヒリヒリしそうと思ってしまいます。つまり、刺激物に対して、皮内 > 眼 > 口腔 > 皮膚の順に敏感に反応するだろうと想像できるかと思います。
 皮膚は最上層に皮脂などが覆っており、その下に角質化した厚くて丈夫な角化層があり、その下には重層扁平上皮という表皮の細胞層があります。そして、下部はコラーゲン線維や血管などで構成される真皮層があります。すでに述べたとおり、皮内反応は、真皮に直接注射するのですが、一方の皮膚刺激性では、皮脂の上に塗布しますので、皮脂→角化層→表皮細胞層を通過してはじめて皮内注射で投与される真皮層に達します。
 刺激反応で見られる紅斑や浮腫は主に真皮層以下の深層で生じますので、刺激物が反応のターゲットに達するプロセスを考えると、直接投与する皮内反応が最も高感度に刺激性を捉えることができると考えてよいでしょう。口腔粘膜の上皮層は重層化した細胞層があり皮膚と同程度なのですが、角化層がないため透き通っており、血管が豊富な真皮層以下の色である赤色に見えます。眼はいくつかの上皮組織の組み合わせで、まず瞼の裏側の眼瞼結膜は口腔粘膜とよく似た構造ですが、細胞層は薄く数層です。白目の眼球結膜は強膜とも呼ばれる部分で、最上層は眼瞼結膜と同じ薄い上皮層です。角膜は角膜上皮細胞という数層の細胞で覆われる程度です。
 このような組織学的特徴から考えても、刺激性の発現度合いは、皮内 > 眼 > 口腔 > 皮膚の順ということがお分かりいただけるかと思います。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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