医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第17回】

2021/05/21 医療機器

 金属アレルギーという言葉があることをご存じの方は多いかと思います。また、実際に、腕時計、ピアス、指輪などでかぶれることを経験された方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、歯の詰め物として用いられる金属により、感作されることも知られています。

 金属アレルギーもそのほとんどは、遅延型過敏症であるとされています。金属から溶出した金属イオンが体内でタンパク質と結合し、それらを免疫系が認識するというもので、この場合の金属イオンは、ハプテン(不完全抗原)と言われます。
 金属元素の中で、しばしばアレルギーが報告されているのは、クロム、ニッケル、コバルトでしょう。クロムは、ニッケルクロム合金やコバルトクロム合金として用いられていますが、革のなめし剤としても広く用いられているため、革アレルギーの原因がクロム由来のことが多くあるようです。歯科材料では、異種金属が口腔内で唾液等を介して接触すると、ボルタの電池の理論で、金属イオンが放出されやすく、感作されてしまうのではないかとされております。他にも、パラジウム、アマルガム、スズなどは比較的感作されやすい金属元素です。一方、金、プラチナ、銀、チタンなどは、感作されにくい金属元素として知られています。

 医療機器では、金属は樹脂とともに汎用される材料です。上述の歯科材料や整形外科インプラント、ガイドワイヤーなど、広く用いられており、特に歯科材料や人工関節等の整形外科インプラントは、数十年にわたり体内に埋め込まれますので、金属イオンに感作されてしまうと、最悪の場合は取り出さないとならず、生物学的安全性としては無視できない問題です。
 歯科材料では、感作性が生じやすい合金が利用されており、以前から金属アレルギーとの関連が研究されておりました。金属アレルギーの患者から、歯に充填している詰め物を除去することにより、症状が改善するという報告も多々あります。
 整形外科インプラントは、チタン合金が多く用いられており、摩耗粉による慢性炎症は報告されているものの、そのものの感作性はほとんど知られていません。チタンは耐腐食性が高く、容易にイオン化しにくいことが感作を生じにくくしている理由かと思います。純チタンでは、強度や硬さが不足することから、チタン合金が広く用いられています。チタンに、アルミニウムやバナジウムを混合したTi-6Al-4V合金は、医療機器以外でもよく用いられています。まれにチタンアレルギーの方もいらっしゃるようで、暴露量が多いと感作されてしまうのかもしれません。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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