医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第16回】

2021/04/16 医療機器

 感作性試験で陽性結果となってしまいますと、実際にアレルギー、特に遅延型アレルギーのハザードがあるという結論が導かれます。
 アレルギーが発症するには、「感作」というステージと「惹起」というステージがあることを前回ご説明いたしました。感作は1回以上対象物質に暴露されることで、生体内の免疫系がそれを抗原として認識するプロセスで、惹起は感作が成立した場合に対象物質に暴露することにより、皮膚反応が生じる兆候のことを意味します。
 医療機器の生物学的安全性で、基本的に試験を実施するのは、少なくとも当該医用材料に今まで暴露されたことがなかったヒトが、それを使うとなった後に、アレルギー反応を引き起こしてしまうリスクを評価することです。つまり、感作されても惹起されなければよいという訳ではなく、感作されないようにコントロールするというのが、リスク管理になります。逆に考えると、陽性であっても(感作性ハザードがある)、感作されないような条件で使用する分には、コントロールが可能ということです。
 3試験法のうち、モルモットを用いるMaximization法(GPMT)では、感作濃度を推定することができます。具体的には、惹起時に観察される皮膚反応の平均値が1点付近(mean response 1: MR1)の惹起濃度が感作濃度に近似しているのです。このことは、以前の国立衛研医療機器部の中村先生らの研究で明らかとなり、薬機99号ガイドラインという3世代前の医療機器の生物学的安全性試験ガイドラインに示されました。

 ここからは少しお話が難しくなります。
 GPMTで惹起操作を行う際は、複数の濃度を用いることが可能です。例えば有機溶媒で抽出物を調製し(抽出物法)、それを10、5及び2.5%で惹起し、それぞれの皮膚反応の平均点が、3、1、0.2の場合、MR1惹起濃度は5%となりますので、抽出物の5%濃度が感作を成立させる濃度であると推定できます(この推定を研究された際の皮膚反応の採点基準が今のものと若干違うのですが、お話を簡単にするためこの部分については無視します)。
 抽出物の5%濃度というのは何を意味するかを次に考えます。
 例えば、有機溶媒の抽出を行った際の抽出率が、10%である場合と0.5%の場合を考えます。感作性物質がすべて抽出物と仮定すると、対象医用材料の10%が感作性物質であると仮定できます。一方で、MR1惹起濃度は5%ですので、対象医用材料に分布するより若干ですが低い濃度で感作が成立するということとなり、リスクとしては無視しない方がよいという結論になります。
 一方、0.5%の場合は、材料に含まれる感作性物質の濃度(0.5%)よりも10倍高い濃度(5%)でないと感作が成立しませんので、実質的な感作性リスクは低いと判断してもよいでしょう。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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