医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第14回】

2021/02/19 医療機器

 医療機器の免疫系に対する生物学的安全性試験として、すべてのカテゴリーの医療機器について評価すべき項目として、感作性試験がガイダンスに記載されています。
 今回は、この感作性試験の中で、特に抽出に関してお話したいと思います。

 これまでもお示ししたように、医療機器の生物学的安全性試験共通の課題として、プラスチックや金属で構成される医療機器そのものを細胞や動物に暴露させることが難しいという事情があります。そこで、感作性試験においても、抽出や粉砕という工程が最初に含まれます。
 感作性試験法としては、遅延型アレルギーの検出試験として、モルモットMaximization test(GPMT)、Adjuvant and patch test(A&P)、そして、Local lymph node assay(LLNA)が挙げられております(第13回参照)。このうち、粉砕物を用いて試験できるのはA&Pで、GPMTとLLNAは抽出物や抽出液を用います。
 粉砕の場合は、ミルなどでプラスチックを冷却下で粉状にします。したがって、医療機器そのものを直接暴露させることができるのですが、注射針を通過するほどの微粉末にすることは困難で、皮膚に貼り付けるという暴露方法に限定されます。健常皮膚に使用される医療機器の場合ですと、そのものの粉状のものを直接皮膚に貼り付けるのだから、一番実使用に適しているのではないかと考えられますが、インプラントや体内の組織に直接触れるものの場合は、どうでしょうか。感作性の成立メカニズムの入り口は、表皮内に存在するランゲルハンス細胞という免疫細胞です。異物が侵入してくると、この細胞が異物を取り込み抗原としてリンパ球に提示して感作が成立します。つまり、ランゲルハンス細胞が取り込めるような異物でないと抗原にはなりにくいということで、プラスチック粉砕物がいくら粉末状であると言えど、0.1 mmもない細胞が取り込むことができる大きさではありませんし、第一に表皮の中にまで入り込むとも考えにくいでしょう。せいぜい粉砕の過程で生じたかなり細かい微粒子と貼り付けた際に溶けだした溶出物が表皮に侵入してランゲルハンス細胞にトラップされる程度ではないかと思います。したがって、健常皮膚に用いられるものでない限りは粉砕物を用いるのはいささか問題であると言わざるを得ませんし、何度も使用して成立するのがアレルギーだと考えると、少し苛酷な暴露条件の方がよいのではないかとも考えられます。
 そこで、抽出物や抽出液を用いる方法がクローズアップされます。ただ、抽出は厄介です。抽出するのに用いる溶媒と、抽出時間や抽出温度によって、溶出してくるものの種類や量が大きく変わるからです。身近な例で申しますと、梅酒などの果実酒を作ることを想像してみてください。材料は青梅と氷砂糖と焼酎でしょうか。この場合の溶媒は焼酎です。材料をすべて合わせて室温で数日間放置すると、氷砂糖が溶出しているのがわかりますが、青梅の変化は限られています。そして、何か月も経過すると氷砂糖はすべて溶出してしまい、青梅からも様々な成分が溶出し、自身も青色から褐色に変色します。また、青梅の主に種に含まれるアミグダリンというシアン化合物の一種も分解されます。このように、抽出時間によって、溶出してくる物質の種類や量が異なるということがお分かりいただけたかと思います。抽出時間だけとっても溶出物の種類や量が異なるのですが、梅酒を作るのに焼酎ではなく、水にするとどうでしょうか。また、加熱するとどうでしょう。あまりおいしい梅酒ができないだろうと感覚的に思ってしまいます。これは、抽出されてくる物質の種類や量が異なるだろうと想像しているからに過ぎませんね。
 変な例え話で恐縮ですが、抽出における、溶媒、時間、温度が結構重要なファクターであることをご理解いただけますと幸いです。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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