医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第10回】

2020/10/16 医療機器

 前回は細胞毒性の考え方と試験の成り立ちをご紹介しましたので、これからは実際の試験内容をご説明したいと思います。今回は、試験系である細胞のお話です。

 細胞毒性試験ですので、試験系は細胞です。試験系という言葉になじみがない方が多いと思います。~系というとつながりや関係を示す言葉に付けられることが多く、例えば外資系、理科系などがよく知られた使い方ではないでしょうか。また、〇〇家系などというラーメン屋やちょっと怖いところでは反社会勢力と呼ばれる××組系という言葉もあります。これらの意味するところを思うと、試験系は試験の関連?と思ってしまいそうですが、ここではtest systemの訳として使われ、試験に用いる動物など、試験に用いる生物のことを指します。生物の身体組織のことをsystemと言いますので、試験に用いる生物(組織)と言うような意味としてとらえていただくとよいかもしれません。その試験系である細胞を用いるのが細胞毒性試験ですが、ひとくちに細胞と言っても様々な細胞があります。単細胞生物のミドリムシのようなものから、動物、植物、そしてヒトの細胞と、まずは種の区別があり、そして、ヒト細胞でも肝臓の細胞、筋肉の細胞、卵細胞など、身体を構成する器官による区別もあります。また、生きている(生きていた)個体から取り出して、培養した細胞(初代培養細胞)もあれば、しばらく試験管内で培養を続けて不死化して株化した細胞もあります(樹立/株化細胞)。これらの細胞をコードしている遺伝子や、活動している遺伝子はそれぞれ異なり、様々な機能や性質を有していますので、毒物に対する反応性も千差万別です。
 それでは、どの細胞を使って細胞毒性試験を行うのがよいのでしょうか。
 主にヒトが用いる医療機器に対する試験ですので、ヒトかヒトに近い動物の細胞に用いる方がよいだろうと思います。また、初代培養は細胞を毎度生きた個体からもらってきて、分離、増殖させて用いるというたいへん面倒な工程が必要ですし、由来の個体が異なると反応性が異なる可能性が高いので、世界中で用いるというような大胆なことはできません。したがって、ヒトかヒトに近い動物の樹立細胞株を用いるのが現実的ということになります。
 HeLa細胞というヒトの樹立細胞株があります。ヒト由来の最初の株化細胞として有名なのですが、この細胞は、1951年に子宮頸癌で亡くなった30代黒人女性であるHenrietta Lacksさんの腫瘍病変から分離されて株化され、その氏名からHeLaと命名されました。どうもご本人の同意などもなく、勝手に採取、株化されて、使われたようです。HeLa細胞の医学への貢献は多大ですが、その後遺伝子情報が筒抜けとなってしまったという、家族にとっては耐え難いこととなってしまいました(「不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生」レベッカ・スクルート、講談社2011)(現在ではこの細胞は、一定のルールのもとで利用することが求められています)。HeLa細胞は癌細胞ですので、比較的容易に増殖させることができます。癌細胞は自律的増殖と言って、勝手にどんどん増える性質を持っているからで、正常の細胞ですとそんなに都合よく増殖してくれません。ましてや、一般的にはヒト由来株化細胞は増殖が緩徐であるというのが印象です。
 Lacks家の問題が影響したかどうかはわかりませんが、これらの理由で、細胞を用いる実験には、哺乳類の株化細胞が用いられることが多く、その中でも扱いやすくて、増えやすく、そして、例えばコロニー形成法と呼ばれる試験ではコロニーがわかりやい状態に増殖する細胞というように、求める結果が得やすい細胞株が用いられているというのが、細胞毒性試験の試験系です。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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