医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第4回】

2020/04/17 医療機器

 今回は、外来物質の量に対する生体の反応について考えてみたいと思います。

 ただ今(2020年3月)は、新型コロナウイルスという微生物による疾病の影響により、オリンピックが延期となって、経済への深刻な影響が出てきています。まさに、疫病神と貧乏神が人間界にやってきた状態です。どうかうまく人間界が反応して、死神まで大挙して来ないよう阻止できればと祈るばかりです。

 桜も開花していますが、この季節に恒例の花見や送別会、歓迎会は自粛ムードで、飲食店での酒宴も控え気味な状況です。このようにパーティのムードでもないので、昨年のことを少し思い出していただきたいのですが、ご自身または周囲の方で、飲みすぎていささか体調が悪くなった方の状態をきっと何例か記憶されておられるかと思います。
 杯を重ねるごとにエチルアルコールによる神経作用が顕著になって、気持ちよくなって来ますが、体内では外来物質であるアルコールを盛んに分解する代謝が行われます。エチルアルコールは、アルコール脱水素酵素(ADH)により、アセトアルデヒドに分解され、さらにこれが主に2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)で酢酸に分解され、ATP等のエネルギーに変換されるという過程を経ることは、学生時代に学ばれた方が多いと思います。また、1型アルデヒド脱水素酵素(ALDH1)も補助的ながら代謝に関わっているとされています。
 日本人の約半数は少量の飲酒後に、顔面紅潮・動悸・頭痛などの反応を起こします。上述のALDH2には3つの遺伝的フェノタイプとして、①活性型、②活性型に比べてアセトアルデヒドの分解が非常に遅いタイプ(低活性型)及び③非活性型があるそうです。活性型以外は、お酒を飲むと顔が赤くなったり、気持ち悪くなったりしますが、これはまさにアセトアルデヒドの作用です。また、アセトアルデヒドには発がん性があることが、動物実験を用いた研究で確認されており、IARC(国際がん研究機関)の分類では、グループ2B(人に対して発がん性があるかもしれない)とされています。

 発がんについては後でお話しすることとして、お酒の量とアルコール中毒の関係を考えたいと思います。
 仮に、大人数のパーティが許容され、お酒を一気飲みし続ける会が開催されたとします。グラスに一杯ずつ飲む会としてみますが、上記のALDH2が非活性の方だと1杯目で気持ち悪くなって倒れるかもしれませんので、そのタイプの方は参加しないとします。そうすると、最初の何杯かは気持ちよくなって会話もはずみ、楽しい気分で過ごすものの、杯を重ねると、段々と酩酊状態になり、今まで赤ら顔の方が、青い顔となって嘔吐し始めたり、横になって倒れこんだりします。最悪は急性アルコール中毒で死亡となってしまいます。生物学的安全性の立場から考えると、これはお酒の悪影響に他なりませんので、このパーティで見られた嘔吐や倒れ込むということを悪影響と定義して、その数と飲んだ杯の数をカウントして、グラフをつくると恐らくは、次図のような関係になるでしょう。
 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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