経済性とGMPは両立するか?

2012/06/25 施設・設備・エンジニアリング

 
 「製造を止めている間、清浄域での換気量を下げたらGMP違反で、許容できないのでしょうか?」と、品証部の人が真剣に私に尋ねて来たとき、私はこのこと、つまり「経済性とGMPは両立するか?」について考え込んでしまいました。
 
 この質問が、米国FDAの「無菌製造の清浄域では、たとえ休止中であろうとも、少なくとも1時間当たり20回換気すること」という推奨が絶対的な要求である、と関係者の皆さんが信じていることに起因するのは明らかです。以下が、この議論に関連している米国FDA2004無菌工程ガイドラインからの引用文です。即ち、「クリーンルームを設計する際のもう一つの重要なパラメータが、換気率である。Class100,000(ISO 8)では少なくとも1時間当たり20回以上の換気を実現する風量が一般的に必要である。Class 10,000及びClass100では、通常これよりもかなり大きい風量が必要となる。」 そのため私は、「GMP本文に、何か経済性に関連した引用文献がないか探そう」としましたが、結局見つかりませんでした。
 
 我々のGMPは多分、最も経済性の高い実践方法についての原典であるべきであって、設備やユーティリティ、製造プロセスの設計や据付或いは運転において、経済性のある方法を考慮する責任を我々に自覚させるべきではないでしょうか。
 
 もし、このような問題を何とかクリアーしたとしても、更に省エネ対策によって複雑化するシステムが待っており、我々は問題の解決に失敗するか、或いは間違った方向に行ってしまいがちです。本来GMPとは、常に求められる品質に適合した製品を出荷することを保証するために安定したプロセス性能を実現するためのものであり、省エネ対策のような問題は「反GMP的である」と考えられます。このようなことは、実質的にどの施設、ユーティリティ、或いはプロセス設計においても言えることです。省エネを目指して達成できた好例には、部屋の温湿度のコントロール、非UDF(unidirectional airflow)室の風量減、UDF室の風速減、非清浄域の空調間歇運転及び製薬用水システムのポンプ運転速度の可変制御等があります。
 
 過去2年間あまり、環境管理システムにおける省エネや揮発性有機化合物(VOC)削減に係る、おびただしい量の研究報告やプレゼンテーション、記事が、所謂「Green Chemistry」として発表されています。これらは、世界的な温暖化の危惧、エネルギーコストの高騰、企業の持続的成長方針といった要素が複合した制止し難い力によってもたらされているように見えます。多くの企業で、投資方針の結果であるリターンの面を厳しく見るようになりましたが、2-3年のスパンから5-7年の見通しに変えることで、省エネ投資の効果を評価し易くなると共に、会社トップの了解を得やすくなってきています。
 
 では、ここから我々は何方へ向かって行けば良いのか? どのような体勢と計画で前進して行けば良いのか? 答えは、我々が計画していることを自覚し、それに伴うリスクを制御するために、その影響度とリスクを評価すること、最も重要なことは、全ての利害関係者を巻き込むことです。このことは、もし、我々の目論見が旧来のGMP適合のアプローチの枠外にあるなら、勿論、規制当局をも巻き込むことになるでしょう。如何なるリスク分析を行う時であっても、我々は常に楽観主義者や悲観主義者に出くわしますし、彼らは同じ程度のリスクに対し全く反対の見方を示すでしょう。だからこそ、我々は様々な見解を素早く効果的に実践してみる基盤の構築と、投資決定を促すための合意形成を生み出す必要があります。
 
 その様なアセスメントにおける第一のステップは、まず当該のシステムや機器が製品の品質に直接影響を与えるかどうかを決定することです。これは、将に我々がリスクベースで適格性の決定を行うときのアプローチと同じです。このタイプの影響度アセスメントをするとき、我々は、例えば、もし冷却水システムが働いている製造工程において完全に温度が管理できているという前提で、冷却水システムは間接的影響要素だと思い込みがちです。もし、こう考えることが許されるのなら、GMPについての詳細な議論なしに、可変クーリングサーキット方式や2ポート式スロットル制御弁、コンデンサー水の熱回収等々、広範な省エネ対策を導入できるかもしれませんが、そうはいきません。当然、GEP(good engineering practice)がしっかり守られ、これらの方式が耐久性のある信頼のおけるものであることを確認する必要があります。
 
 品質に直接影響を与えるシステムについて検討する場合、QAによって確認されたリスクアセスメントの手順を経る必要があります。選択肢及びリスク/ベネフィットのバランスをレビューしなければなりません。ぶち当たる最もありふれたリスクは、システムが複雑になって、クオリフィケーション業務が増加し、メンテナンスが難しくなり、重要計器のキャリブレーションが増加するなど、却って故障が増えてしまうことです。そのようなアセスメントの中で、リスクをコスト化することは大変難しいので、しばしば「その様に評価が難しい」という判断がなされてしまいます。我々の経験が積み重なるにつれ、単なる意見ではなく、現実の情報に基づいて我々の確信のレベルを上げて行けなければいけません。
 
 筆者は、不必要業務や官僚的なお荷物を増やすことを擁護するものでは全くありません。我々は、John SharpがEJPPS2009の手紙の14(3)項で、「リスクを分析し、評価し、管理することは、安全で効果的な医薬品を保証する合理的で責任ある手段だ」と明確に指摘していることを思い起こすべきです。重要な課題は、いい仕事をすることよりも重要に見えるけれども、(本当は)価値のない非現実的な活動(重要ではなく枝葉の問題)の周りに存在しているものです。(John Sharp:UK MCAを引退し、品質と規制の問題について多くの著述があります)。
 
 最後に、我々は、システムの複雑化を引き起こすことなく、多くの持続可能なことが実践できることを思い起こすべきです。それは、GEPに由来します。その好例が、低抵抗エアーフィルターであり、高効率モーター、高周波コントロール装置付き高効率蛍光灯、等です。これらのうち多くの物が、メンテ頻度の低下や、運転の障害や中断を減少させ、汚染を低下させるなど、隠れたところでGMPにベネフィットをもたらしているのです。

執筆者について

ゴードン J. ファーカソン

経歴 Critical System Ltd 代表。
ライフサイエンス業界における製造プロセスや設備に関わるエンジニアとして30年以上の経験を有し、アイソレータや封じ込め等の技術に詳しい。また、EU、PIC/S、WHO、米国FDAのGMPに対する高度な専門知識を持つ。各規制や規格の開発改正にも度々参加しており、代表的なものとしてEUおよびPIC/SのAnnex1、WHOの製薬用水ガイダンスの作成等の実績がある。
エンジニアリングおよびレギュラトリーサイエンスという2つの専門分野を背景に、GMPのコンセプトを現場に落とし込むコンサルティングを得意とする。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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