【第52回】Operational Excellence 実行の勘どころ 、“変革推進、品質は儲かる”

改善を続ける仕組みづくり(その1)

 第34回より、2022年秋に開催したGMP Platformセミナー、「一歩進んだ業務改善、納得感あるスタート 〜活動の仕組みづくり」、サブタイトル「変革推進、品質は儲かる」でお話した内容をベースに紹介しています。セミナー内容からの紹介シリーズは、今回で最終回となります。最後は、改善を続ける仕組みづくりについてです。2回に分けてお伝えします。

 私はこのOPEX実行・推進業務を事業会社内外で20年以上行っています。リーンシックスシグマや各種改善手法、ツールを学んでも、それらが価値ある形でアウトプットされ、継続されないと意味ありません。会社組織内で継続され、組織としてのDNAとなり、継続発展するには「改善を続ける仕組みづくり」が必須なのです。
 学校や職場、何かの趣味・サークル活動、結婚・家庭生活でも同じですよね。スタートよりも維持すること、そして毎年少しずつ新しい変化を加えることが大切とは思いませんか。
 実はこのテーマだけでもお伝えしたいことはたくさんありますが、ポイントを絞ってお伝えします。プロジェクトや何か施策を行う場合、核となる人や組織、目標や運用ルール、持続させるには計画と管理が大切です。グローバルで仕事をしていると、プロジェクトリーダーは誰か、計画と運営の仕組みはどうなっているか、他のプロジェクトとの関連性やリスクについて最初に議論します。予算と必要工数を算出してからプロジェクトにとりかかります。日本ではその仕組みを議論したり、計画したり、プロジェクトマネジメントやリスク管理部分の認識が弱いのではないでしょうか。大規模建設プロジェクトでは当たり前ですが、業務改善プロジェクトのような通常業務に付加される業務では、それにかかる準備や実行に必要な工数計算と管理がとても曖昧です。軍事でいうと作戦の後方支援の兵站です。兵站がしっかりしていないと作戦が継続できません。危惧するポイントの1つです。

 GMP Platform読者の方々は大企業や、中小の企業組織でも母体の企業組織は大きい、ベンチャーではなく、比較的確立された組織に所属されている方が多いと思います。改善を続ける仕組みづくりは、ひとことで言うと、企業組織の運営と同じです。開発部門、品質保証部門、品質管理部門、製造部門のそれぞれは、短期的にはマネージャー(リーダー)不在でもルーティン業務は回ります。一方で何か新しいことをスタートさせる、年次方針を立てる場合などは、マネージャーが不在だと部門としての判断ができず、それ以降の新しい試みは前に進みません。そのような経験をお持ちだと思います。OPEX推進室の設置と役割も同様です。
 20-30人の組織であれば、だれかがリーダーとなり、簡単な合議制でフレキシブルに運営する方法もあります。それでも大きな判断はマネージャーや権限と責任を持つリーダーなしには、現状維持のみで、変革や業務改善に進まないでしょう。

【OPEX(変革)推進室の役割】
 私が過去に経験したオペレーショナル・エクセレンスの中で成功したものは、変革推進室が組織として存在し、その位置づけと運営がうまくいったときでした。推進室長は、社長または実施する事業部長へのダイレクトレポート、シニアマネジメントとなります。企業組織の規模によりますが、専任で年間の活動計画策定、変革プロジェクトの全体進捗管理、月次活動報告とりまとめ、社内への活動プロモーションなどの業務を行います。トレーニングの企画と実施、イベント企画なども行います。図52-1のような業務です。
 人事研修グループや社内広報とも連携しますが、役割と目的が違うので、OPEX推進室が中心にリードするのがスムースです。OPEX推進室に専任メンバーがいて活動を推進します。人材確保が必要ですが中途半端にならず、年次目標のアウトプットと効果金額を産むことができました。
 最も工数がかかるのはOPEX手法を教える教育トレーニングと、プロジェクトに関するコーチングです。この部分は専門性も要求され、リーンシックスシグマ・ブラックベルトなどのスキルを持ったメンバーで行います。はじめからこのような推進室を持てない場合は、外部コンサルタントを活用する選択肢もあります。できる部分は社内で人材を揃え、足りない部分を外部に依頼し、数年(2-3年)で自立運営することが理想です。

<図52-1 変革推進室の役割>

 図52-2はOPEX推進室の主な業務です。ここまでしっかり行うと、企業内でかなり変革が進みます。しっかりとしたアウトプット、効果金額も出せます。この組織は永遠ではなく、OPEX活動が軌道に乗ったら縮小できます。それぞれの業務は関連する組織に吸収され、継続的な変革推進という前向きなカルチャーが企業組織の中にDNAとして残れば大成功です。

<図52-2 変革推進室の主な業務>

【OPEX(変革)の失敗事例】
 OPEX推進でうまくいかなかった経験もあります。みなさんが知りたいのは、うまくいった事例よりも失敗談です。失敗事例はなかなか世の中に出てこないものです。大切な部分なので、紹介できる範囲で3例をお話しします。変革推進室の名称はそれぞれ異なりますが、便宜上OPEX推進室として紹介します。

 失敗の1例目は、OPEX推進室を持たずに、OPEX実行リーダーが通常業務を持ちながら、兼務で業務改善活動を実行しようとした例です。結論からいうとリーダーは兼務で忙しく、周りのメンバーにも活動が周知されず、1つのプロジェクトもうまく進まなかったケースです。OPEX推進室という組織形態が必要なのではなく、振り返ると中途半端であったと言えます。
 会社全体で約80名、営業と顧客サービス員を除く管理部門は約20名、小さな組織だからと、プロジェクトリーダーが兼任で業務改善をすることになりました。対象は管理部門20名プラス営業リーダーの数名です。実行リーダーは優秀な方で、新商品のマーケティングから上市という会社の重要プログラムを任されていました。これだけでも大変なのに、能力があるからと、社内の業務改善リーダーを兼務することになりました。私は外部コンサルタントとして、その方を支えるべく年間スケジュール、目標、方針策定、ワークショップ開催などを支援しました。方針とスケジュールを立てる上で、まずは現状のプロセス分析を実施しなくてはなりません。ハンドオフダイヤグラム、VSMを作成し付加価値、非付加価値、ムダ、バラツキ、ボトルネックを見つける作業をしました。日程を決め、管理部門のリーダー(6-8名)を招集しますが、当日に人が集まらないことがありました。集まっても急な電話や呼び出しでミーティングを抜ける人がいました。実施目的の情報共有が不十分なので、なぜこのVSMワークショップに呼ばれるのか理解せず参加している人もいました。ワークショップ中も通常業務の打ち合わせ話になります。また通常業務の合間なので1回の開催時間は約90分、会議室利用は限られ、次の会議があるからと、直ぐに会議室を出なければならない状態でした。やるべきことの方向性が決まっても、メンバーの優先順位は通常業務にあり、業務改善はあくまでもアドホックな作業でした。およそ2週間に1回の割合で4カ月ほど続け、社長と役員の方々に方向性の中間報告を実施しました。報告会では、「あとの実行は、良く内容を吟味してから」とのことになり、結局はフェーズアウトとなりました。たとえ社内で優秀な方でも、兼務がいくつもあり業務改善を片手間に実行するのは何事も中途半端になります。参加するメンバーも結果が見えていたのでしょう。ミーティングやOPEX活動はその場限りで、他人事でした。

 

 

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