経皮吸収製剤 ~基礎から応用まで~【第5回】

2024/02/23 製剤

前回に引き続き経皮吸収製剤に用いられる製剤添加物について解説する。

5.経皮吸収製剤に用いられる製剤添加物(2)

5.3 吸収促進剤
多くの薬物は角層がバリアとなり、皮膚からの薬物吸収が限られどのような薬物であっても薬効を発現する必要十分量は皮膚透過する訳では無いことは既に述べた。つまり経皮吸収製剤として製品化されたら良いという化合物でも、目標となる皮膚透過量が得られないことはよくある。第3回で示した経皮吸収しやすい物性を持つ薬物でも同様である。そのような時に必ずと言っていいほど話題になるのは吸収促進剤である。
経皮吸収量を向上させる方法としては、以下の3種類があげられる。
① 薬物自身の化学的修飾により薬物自体の水溶性―脂溶性のバランスを変える
  プロドラッグ化
② 吸収促進剤に代表される化学的方法
③ イオントフォレーシスなどの物理的方法

ここでは製剤添加物としての吸収促進剤について解説する。
一般的に薬物の吸収率が低い原因としては、薬物の基剤中への溶解度あるいは溶解速度が低い他に、角層でのバリアが考えられている。これを解決する手段として吸収促進剤が期待されている。吸収促進剤による吸収促進メカニズムとしては、脂質二分子膜や膜タンパク質との相互作用による細胞内経路や細胞間隙経路での透過促進などが示唆されている。つまり薬物の皮膚透過ルートは大別すると、角層を透過するルートと付属器官を透過するルートの2つがあるが、皮膚の形態学上付属器官(汗腺、毛穴、皮脂腺)の有効面積は、皮膚全体の約0.1%であるため、薬物のほとんどは角層を経由して吸収されると考えられている。製剤の処方検討を考える際に、まず如何に薬物を基剤中に可溶化させることが出来るかという事と、如何に角層を透過させるかを考える必要がある。まず、薬物の可溶化に関しては、界面活性剤や可溶化剤などを用い、基剤中の薬物の活動度をあげる必要がある。特に可溶化剤の場合は、それ自身が皮膚透過することによりキャリアーとして薬物の皮膚吸収を促進させ、皮膚中の薬物濃度を増大させるものが良い。表5には、多くの学術文献で報告されている薬物のキャリアーとして作用する代表的な吸収促進剤を示す。特にポリオール類は、角層の保湿効果を有する吸収促進剤としても用いられている。


表5 薬物のキャリアーとして作用する吸収促進剤

分類 代表的な吸収促進剤 主な作用機序
アルコール エタノール、プロパノール、ブタノール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコール、他 薬物の可溶化、表皮への分配向上、高濃度では脂質の抽出、脂質の配列や易動度は変化させない
ポリオール プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロパンジオール、他 α-ケラチンの溶媒和により薬物-組織結合を減少させ、透過性を増大させる、角質層の水相部分での可溶化能の増大
アルカン ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、他 角質や表皮の広範なバリア変化、浸透による皮膚の非破壊的なバリアの減弱

 

 

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執筆者について

山内 仁史

経歴

1981年第一製薬株式会社(現第一三共株式会社)に入社。研究所 製剤研究センター配属となる。株式会社ディ・ディ・エス研究所、埼玉第一製薬株式会社研究部に出向し、その後ニプロパッチに転籍。研究開発部長、ビジネス開発部長、春日部工場長を歴任。ニプロファーマ株式会社品質保証部参与を経て、現在は公益社団法人日本薬剤学会事務局顧問。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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