【第3回】ライフサイエンス業界に迫る拡大するランサムウェア・マルウェア被害、サイバーセキュリテ ィの展望

ライフサイエンス業界におけるOTセキュリティの重要性

  前回も触れましたが、ライフサイエンス業界、特に製薬業界は非常に価値のある機密データを保有し、その機密データの中には、研究開発データ、医薬品や開発に関する知財情報、治験患者や臨床データなどを保有しています。そのデータを狙うサプライチェーンへの攻撃が増えている現状を紹介いたしました、今回は、ライフサイエンス業界におけるOT(Operation Technology)セキュリティの重要性に関して解説しようと思います。
 まず、OTセキュリティとは何でしょうか? ライフサイエンス業界におけるOTとは何を指すのでしょうか? 製薬業界から見ると、OTとは、工場や研究所などの製造現場で利用されている設備やシステムを動かすための制御システムを指します。一方、病院や医療におけるOTは、医療機器や医療システムそのものやそれを制御するシステムを指します。
 近年、それらのシステムを標的としたマルウェア*1やランサムウェア*2の攻撃が後を絶ちません。従来、外部ネットワークに接続されていない工場、研究所、及び病院のシステムは、サイバー攻撃の対象にはなりにくいと考えられていました。しかし、近年はインターネットと直接つながるIoT*3機器の導入やDX化によるスマートファクトリーへの移行により、工場、研究所、そして病院を取り巻く環境は大きく変化しました。それらのシステムと外部ネットワークに接続するシステムが増えて、サイバー攻撃の被害の可能性が高まっております。
 事実、今年6月には、製薬大手・エーザイがランサムウェア攻撃の被害を受け、物流関連のシステム等に影響がでました。また、先月11月末にも、大分県中津市の市民病院の病院システムがランサムウェアに感染したと発表がありました。そこで、重要なのがOTのセキュリティ対策となります。
 それでは、具体的になぜOTセキュリティ対策が重要になるのでしょうか。それは、以下の理由にまとめることができます。

製造プロセスの安定性と品質管理:
ライフサイエンス業界では、製薬、医療機器、食品などの製造プロセスが非常に複雑であり、安定した製造プロセスの確保が、品質に直結します。特に、医薬品の製造はISO 9001などに代表される品質管理システム規格に基づいて、組織内で品質管理システムを確立し、厳格な品質管理が要求されるため、患者の安全性と製品の有効性を確保するためには、プロセスの安定性と品質管理の確立が欠かせません。もし、製造ラインやプロセスの制御システムがサイバー攻撃を受けると、製品の品質や安全性に深刻な影響を与えることになります。
 
法令の順守:
ライフサイエンス業界は、製品の品質や安全性を確保するために厳格な規制要件に従う必要があります。各国により、医薬品の製造、輸入、販売に関する法律や規制が存在しますし、例えば、Good Manufacturing Practice (GMP)、Good Laboratory Practice (GLP)、Good Clinical Practice (GCP) などの様々なガイドラインも存在します。これらのガイドラインや要件は、製造プロセスのデータへのアクセス制御、監査履歴の確保、およびセキュリティガイドラインの実行などが要求されます。OTセキュリティはこれらの法令要件を守る為に不可欠です。
 
知的財産と機密情報の保護:
ライフサイエンス企業は新しい医薬品や医療技術を研究開発し、多種多様な機密情報や知的財産を保有しているだけではなく、また、患者や臨床試験参加者などの個人情報等も含まれます。これらの機密情報が漏洩すれば、企業の競争力が、大きく損なわれる可能性があります。したがって、製造プロセスのセキュリティは知的財産の保護にも影響する可能性があります。
 
製造サプライチェーンの信頼:
前回の記事でも触れましたが、ライフサイエンス業界は、サプライヤー間やグループ会社間取引など、複雑なサプライチェーンを有しており、また、国や地域レベルでのサプライチェーンの確保まで目を向けると、非常に多岐にわたるため、そこにセキュリティの脆弱性が潜んでいます。サプライチェーン全体でのセキュリティの確保は、信頼性の高い製品供給に直結しています。
 
ブランドの毀損:
製薬業に限った話ではりませんが、サイバー攻撃を受けると、製造プロセスの停止等の実質的な被害に留まらず、研究データや機密情報の流失につながる可能性があり、被害者への多額の賠償、及びひいては企業のブランド価値の大きな毀損に繋がります。

 これらの要因から、ライフサイエンス業界ではOTセキュリティが非常に重要視され、適切なセキュリティ対策を導入する必要があります。また、セキュリティの確保は、企業の信頼性確保のために、欠かせない要素となっていますが、それでは、OTセキュリティの侵害はどのような方法で発生するのでしょうか? 製薬業界及び、医療において、OTセキュリティの侵害が発生する原因は様々ですが、以下に代表的な要因をまとめて見ます。

 

 

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