ゼロベースからの化粧品の品質管理【第33回】

2023/06/23 化粧品

今回は、委託生産、OEM/ODMについて。

―化粧品の委託生産における品質保証体制について―

 化粧品GMPに関して、ISO22716の手順書に続き、実務運用の中で気になっている事項についてお話させて頂いています。今回は、セミナーの要望が最近多かった委託生産、OEM/ODMで管理職の方の発言で気になった点についてお話します。
 委託生産における注意事項としては、事業戦略的な視点や経営面、一般的な製造における品質、コスト、納期面でも幅広い事項が対象になります。更に、海外製造所と委託生産をやり取りする場合には、法規面や商取引における法規や慣習、資金回収まで一層複雑な対応が求められます。しかしながらこれらのことを延々と説明する訳にはいきませんので、今回のテーマについては一番基礎的な法規、GMP面に絞りお話させて頂きます。
 ところで、皆さんは化粧品で使われているOEM/ODMという言葉にについて、どのような認識を持っておられるのでしょうか?実態としては、この二つの区分はあまり明確にされておらず、一般的な生産の外部委託もOEMと表現使われているように感じます。
 サプライチェーンからの論点でどのように捉えているのでしょうか? ここでは、a)OEM:生産における外部委託生産(原材料の調達、バルク製造、充填仕上げ、製品の製造所からの出荷まで)、b)ODM:製品の企画段階から生産までの外部委託生産である、と定義させて頂きます。
 更に、外部委託生産における技術的動機を見てみると、c)自社の技術インフラが同等以上の場合と d)自社の技術インフラが不十分である場合には別れます。従って、a)、b)とc)、d)の組み合わせにより、品質保証の具体的な進め方や注意点は違います。従って、外部委託生産の話をする場合には、この区分をあまり明確にされずにお話をされている方が多いように感じますが、この点は明確に前提条件を明確にして議論された方が良いように感じます。
 それでは早速全体的な話の中から、委託元としての視点から具体的な事例で話をさせて頂きます。

1.法規違反とならないことの確認項目
① 事例1)
 A社ではバルクを自社工場Bで製造して、外部製造所のC社に充填・包装・仕上げの加工を委託して、完成品を自社工場Bに戻して、自社工場Bで製品検査を行い市場出荷しています。B工場の方から市場出荷はA社本社で行っているものの、C社の指導はB工場を行っているが、どのように監査や定期指導を行うべきかB社の方から質問を受けました。しかしながら、そもそも法的要求に対して理解されているのか疑問を感じました。皆さんは如何でしょうか?
<疑問点>
a) 化粧品製造販売においては製造販売業であるA社は品質管理者および管理部門が各製造所を管理することが求められています。法的には製造所が委託先の製造所を管理するのではありません。仮に、工場Bに対してA社の関連部門が関与しないで丸投げの状態で運用されているとすると不味いですね?
b) 工場BからC社にバルクを送る際に工場Bで製造所として出荷判定書を作成しているのか?単にバルクのC社向けに検査表を作成しているだけではないか?製造所から外部に出荷するものは製造所としての出荷判定書が必要になりますね?
c) A社の市場出荷に際して、B工場の出荷判定書(衛生管理記録、製造記録、検査記録、逸脱・変更事項の有無の状況の確認)はどのような確認を行っているのか? 同様にC社の出荷判定書についてはどのように確認しているのか?また、日々の管理はどのように行っているのか?製造所としての出荷判定書の発行と市場出荷に対しては、検査結果だけではなく総合的な評価結果と判定が必要です。
 
② 事例2)
 D社では自社工場では化粧品の開発、製造に関するノウハウを持っていないため、E社に対してイメージにあった商品をサンプル制作から最終製品の量産までを一貫して委託しています。市場出荷に関してはE社から発行される製造所としての試験結果を含む出荷判定書を受領し、外観検査と使用性をD社の品質部門が確認した後に市場出荷判定を行い出荷している。
 但し、E社では自社内ではピロー包装機を保有していないため、関連会社のF社に加工を委託して対応している。その後、最終的にはE社製品が戻されるためD社としてはE社との取引としている。
<疑問点>
a) 化粧品の製造販売業であるD社は各製造所と取り決めに関する契約書を結ばなければならない。従って、E社だけでなくF社とも契約書を結ばないといけない。F社との契約書が結ばれているのか?
b) E社、F社それぞれの製造所から出荷される際には製造所としての出荷判定がどのようになされ、製造販売業者D社はどのように管理しているのか?製造所としての出荷判定書はどのようになっているのか?(衛生管理等の事項も含む)
c) 原料、材料の供給者について、E社からどのような評価結果得ているのか?更に、定期的な監査等の管理をD社はどのように行っているのか?
d) E社、F社の逸脱事項、変更事項について、D社はどのように情報を得て、どのように管理しているのか?
e) 使用期限表示をしない場合は3年間以上の保証が必要となるが、最終容器形態での保証はどのように行われるのか?あるいは、どのような根拠を以て判断されているのか?
f)  保存サンプルは試験検査に必要な2倍以上の量で製造してから3年間の保管が必要であるが、だれが保管し、どのように評価し、その情報はどのように管理しているのか?

 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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