医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第40回】

2023/04/28 医療機器

TTCの分析について。

TTCの分析

 医薬品不純物に関して確立された考え方として、TTC (Toxicological Threshold Concern; 毒性学的懸念の閾値)を前回ご紹介しました。この概念では、一生涯のばく露として1.5 µg/ヒト/day以下であれば遺伝毒性を含めて、一定の毒性懸念は無視できると考えられています。
 今回は、ISO 10993-18:2018 Biological evaluation of medical devices - Part 18: Chemical characterization of medical device materials within a risk management processにおいても溶出物の評価にこの概念が用いられておりますので、このISOガイドラインが言及しているTTCの考え方について概説したいと思います。

 今までも述べてきましたが、医療機器からの溶出物といっても生物学的安全性のリスクとして重要なのは、皮膚に接触する医療機器であれば、汗や皮脂などの体液成分に溶け出るもの、インプラントや血管内留置の医療機器であれば、細胞間液や血液などに溶け出るもの、輸液バックなどの体内に連結されるものであれば、輸液などに溶け出るものが溶出物として想定されます。これらは実際にヒトに用いられた際には、体内に到達し得るものという意味で、leachableと言われます。一方、感作性試験や遺伝毒性試験を行う際に、抽出溶媒として有機溶媒を用いますが、これは溶出する可能性があるものはすべて抽出するような方法で、それにより得られたものをextractableと言います。つまり、医療機器材料を構成する化合物の中で溶出する可能性のあるものすべてがextractableで、その中の一部の物質がleachableというような概念です(多少の例外には目をつぶってください)。医薬品不純物の場合は、含まれているものすべてが投薬により摂取されますので、あまり難しいことを考えずに不純物全量を対象として考えればよいのですが、医療機器の場合は、溶出という結構不確定要素の大きいプロセスがありますので、ここはよく考えなければならないポイントです。
 それでは、TTCを求める場合、extractableなのかleachableなのかということになりますが、ISO 10993-18では、" extractables or leachables"として明確にはされていません。ただ、「AET (analytical evaluation threshold)を超える濃度のextractablesは、毒性を有する可能性が十分にあるため、毒性リスク評価の前提として、抽出物の同定と定量が必要である。」としており、まずは、extractablesと考えておいた方がよいかと思います。ただ、緩衝液や生理食塩液しか入れない輸液バッグについて、extractablesを求めるために有機溶媒を用いてまでの抽出は不要です。また、過度の抽出条件ではextractablesのプロファイルを変えてしまう恐れがあるため、あまり苛酷な抽出も考えものです。
 抽出比、抽出温度、抽出温度によって、得られる抽出物のプロファイルが異なる可能性があります。また、これ以上といっても過言ではないと思いますが、抽出溶媒を変えると、抽出物の量やプロファイルは大きく異なります。例えば、水を保管するようなポリ容器に灯油を保管するとどうなるでしょうか。最悪は溶けてしまうことですが、たいていは短期間なら大丈夫なものの、そのうちもろくなってヒビが入ったり、白くなってきたりしますよね。一方、灯油ではなく、お酢だったら、何も変化しないと思います。ただ、お酢を銅のカップに入れておくと、お酢が青く変色するかもしれません。このような変化がある場合は、たぶん溶け出すものの種類や量が変わっているのだろうと想像できますよね。したがって、当たり前ですが、材料によって抽出溶媒を選択する必要があり、ISO 10993-18では、インプラントなど長期使用の材料の抽出溶媒として、複数の溶媒を選択するのが妥当としています。参考までにISO 10993-18に示された溶媒を下表にまとめました。
 

極性 溶媒
極性溶媒
半極性溶媒 ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、アセトン、エタノール、
テトラヒドロフラン、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール
非極性溶媒  トルエン、シクロヘキサン、へブタン、n-ヘキサン


 ただ、繰り返しになりますが、抽出ですので、材料が溶解したり、変質したり、分解すると、それは溶解物であったり、分解物であったり、抽出物とは異なるものを得ることになりますので、そのような環境にするのは不適切ということとなります。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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