知的財産の基本から知財ミックスまで【第10回】

2023/03/17 その他

特許権の年金管理について。

特許権の年金管理について

(1) はじめに
 特許査定が通知され、30日以内に特許料を支払うことによって、特許登録されることになります。
 ここで、特許料(特許維持年金または特許年金)とは、特許権を維持するために特許庁に支払う料金です。
 特許料を所定の期日までに支払わないと、特許権が消滅してしまいますので、その管理は非常に重要になります。

(2) 特許料について
 特許料の金額は、請求項の数に応じて算出され、次の表に示すように、登録期間が長くなるに連れて段階的に高額になるように設定されています。

(特許料の正確な金額は、特許庁の「手続料金計算システム」(https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/jidou-keisan/index.html)によって確認することができます。)

 この表を見れば分かる通り、第10年以降は特許料が高額になります。

 そこで、特許権を維持するか否かを定期的に見直した方がよいでしょう。
 具体的には、他社製品に対する自社製品の優位性や、代替技術の存在等を考慮した判断基準を作成し、それに基づいて戦略的に判断することをお勧めします。

 なお、特許料を支払わない場合には、その特許権は自動的に消滅することになりますので注意が必要です。
 

(3)特許権の年金管理の重要性
 上述したように、特許料を支払わないと、その特許権は自動的に消滅します。
したがって、特許権の年金管理は非常に重要です。

 特許庁からは、「年金納付期限が近づいている」等の通知は一切なく、自己管理が原則になります。
 自社内に知的財産部等のような専門部署があれば、そこで管理してもよいですが、担当者交代等によって年金管理業務がスムーズに引き継がれなかった場合のリスクは甚大です。

 具体的なリスクとしては、上述したように特許権が消滅してしまうことです。そして、特許権が消滅してしまうと、同じ内容の特許出願を再度申請したとしても、特許の登録要件の一つである新規性が欠如しているという理由で、二度と登録されることはありません。
 すなわち、一度特許権が消滅してしまうと、原則として特許権の回復はできないということです。
 (なお、特許権が消滅してしまった場合であっても、例外的に回復することが可能となっています。しかし、回復申請できる期間が制限されていたり、料金を倍額払う必要がある等の制限があるので、注意が必要です。)

 また、特許権消滅の影響は権利者だけではなく、その特許権に関してライセンスを受けている企業(ライセンシー)等にも大きな影響を与えることになります。特に独占的なライセンスを受けているライセンシーの場合には、特許権の消滅によって参入障壁が崩れてしまうことになります。ライセンシーも、特許権の年金管理について留意を払っておく必要があります。

 このようなリスクを低減させたい場合には、費用はかかりますが、特許事務所や年金管理会社等に年金管理業務を委託することをお勧めします。

 これらの機関は、複数のシステムを使って特許料の納付漏れが発生しないように、十分な対策をしていることが多いです。

 ちなみに、会社名義で特許権侵害の警告書が送られてきたので、その特許権の特許原簿を取り寄せて現状を確認したところ、特許料未納で既に消滅していた、ということも少なからずあります。
 

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執筆者について

高松 孝行

経歴

ブランシェ国際知的財産事務 共同代表弁理士。
茨城県出身。東京工業大学大学院にて原子核工学を専攻。大学院での研究経験を生かして、弁理士となる。特許事務所勤務を経て、独立行政法人産業技術総合研究所(現国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研))にて、医薬・医療機器関係の技術を含む技術移転業務に従事。数百社との技術移転交渉、1,000通を超える契約書作成を経験。産総研退職後、2015年3月事務所開設。現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業カタライザーおよび独立行政法人中小企業基盤整備機構の中小企業アドバイザー等の公的機関の専門家として、医学部の教授、医師、医療機器メーカー、医療ベンチャー企業等の支援を行う。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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