医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第38回】

2023/02/24 医療機器

「がん原性」、「生殖発生毒性」及び「生分解性」について。

がん原性

 「医療機器の生物学的安全性評価の基本的考え方」にあるいわゆる星取表(表1)に、評価が推奨されるという意味で、"E"とマークされていた生物学的安全性試験項目について、これまでお話させていただきました。これからしばらく、"E"があっても少数か、"E"がない項目である、「がん原性」、「生殖発生毒性」及び「生分解性」についてお話したいと思います。

 まずは「がん原性」です。
 がん原性の評価が推奨されている医療機器としては、表面接触医療機器では、損傷表面に長期接触するタイプの医療機器、体内と体外とを連結する医療機器では、血液流路に間接的に接触するもの、組織/骨/歯質に接触するもの、そして、循環血液に接触するもののうち、長期接触するタイプの医療機器です。また、インプラントでは、組織/骨や血液内に長期埋植されるタイプの医療機器に対して"E"マークが付いています。これらに共通するのは、まずは長期接触であることと、何らかの形で体表ではなく、体内に接触するタイプの医療機器ということでしょう。
 それでは、仮に健康診断の採血時に使用される翼状針の羽根の部分の樹脂から、発がん性物質が溶出するかもしれないと聞いたらどのように思われるでしょうか。健常皮膚にちょっとだけの時間しか接触しないので、「まあいいか。」と思う方はほとんどいないでしょう。これと同様に、発がん性物質が含まれる恐れがあるのなら、どのようなタイプの医療機器でも十分評価する必要があります。
 以前からお示ししたとおり、「評価」=「試験」ではありません。基本的考え方においても、「原材料の不純物及び医療機器からの溶出物の化学的同定と、これらの化学物質のばく露量などから、発がんリスクを評価することが基本となる。」と示されていますし、「重大な発がんリスクが存在しない医療機器に対し、発がん性試験を実施する必要性は低いと考えられる。」とも記載してあり、実質的には、発がん性試験まで実施する医療機器はほとんどないかと思います。
 ただ、"E"に該当する医療機器を申請する場合、発がん性物質が材料中や工程中で混入する恐れがないからと言って、スルーして何も言及しないのは問題ですので、その旨を科学的に記述して、それが故に発がん性リスクは無視しうると評価していただければと思います。

 医療機器中に発がん性物質が含まれている可能性は、どのようにしたら検索できるのでしょうか。
 まずは、材料の情報や化学的情報を整理し、発がん性物質として知られているものが、原材料の構成化学物質中に存在しないか確認いただければと思います。インターネットで「発がん性(carcinogenicity)」や「遺伝毒性(genotoxicity)」を絡めて検索すると、情報が得られる場合があります。ただ、情報ソースとしては、国家機関やそれに準じる機関が発出している評価書や、原著論文など、信頼性の高いものを引用してください。どこかの一般的な論評や、SDSなどのみでは、いささか信頼性に欠けますので、その場合は、引用文献までさかのぼって情報を得ていただければと思います。
 また、製造工程中に高温環境にさらされるなどして、原料化学物質が変質して毒性を示すことも考えられます。このような場合、その化学物質が一般的に高温環境などを経て流通するのであれば、変質した不純物も含めて評価されたデータが公開されている可能性がありますが、そうでない場合は、当該の医療機器を用いて実施した遺伝毒性試験の試験結果を確認していただき、問題のないことを確認してください。高温環境はしばしば酸化を引き起こしますが、その際にラジカルが発生しやすい形に分子構造が変化すると、遺伝毒性や発がん性のリスクを想定しないとならないためです。
 遺伝毒性試験の結果は重要です。遺伝子突然変異試験とin vitro哺乳類培養細胞を用いた試験の両方が陰性であれば一安心ですが、いずれか一方が陽性で、in vivo小核試験では陰性であった場合は、遺伝毒性としては陰性と評価できるのですが、化学的情報として原料化学物質や材料中に遺伝毒性物質が含まれている恐れがないか、よく確認いただければと思います。
 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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