医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第34回】

2022/10/28 医療機器

血液適合性試験の結果と対応について。

血液適合性試験の結果と対応

 血液適合性試験にはたくさんの種類があるため、その結果の解釈や対応について順にお示します。

 まず溶血についてですが、これは医療機器を生理食塩液で抽出した液に血液を添加して、溶血の程度を確認するものです。溶血性が認められる場合は、抽出条件の実使用状況との関連性をまず確認してください。抽出割合や温度条件が実使用条件と著しく離れている場合は、実使用状況をシミュレートした条件における試験を追加し、考察するとよいかと思います。溶血性は赤血球の膜が破壊されることによる影響ですから、細胞毒性と相関することが多くあります。細胞毒性試験の結果を確認するとともに、刺激性試験を実施していれば、特に生理食塩液抽出液の結果も確認し、いずれにも影響があれば、細胞膜に影響する細胞しょうがい傷害性の水溶性物質が溶出している可能性が考えられます。
 抽出液については、攪拌してみると泡立つことがあります。泡立ちがあるということは、溶出物があることを示しており、特に界面活性作用があると膜破壊の原因となります。

 つぎに、in vitro試験として行う、血液凝固や血小板活性化作用についてです。
 血液凝固作用や血小板活性化作用が亢進する場合は、血栓形成が促進されてしまいます。そうではなく、逆にいずれの作用も抑制されるといかがでしょうか。今度は血液凝固作用が阻害されることになり、これもまたよくない影響になります。
 現代病として誰もが気にする脳血管障害の原因は、血栓が形成されて塞栓してしまうことで、どちらかというと、医療機器の作用としては血栓の形成が促進されてしまう方が大きな問題かと思いますが、阻害される場合も問題だということを覚えておいていただければと存じます。
 問題がある結果が得られた場合には、抽出液を用いている場合は、溶血と同様に抽出条件の妥当性を確認していただければと思います。原因を追究することは重要で、可能であればそれを取り除けるとよいのですが、難しい場合で、かつ、作用としては弱い場合、in vivo試験で確認してみるという手もあろうかと思います。ただ、in vivo試験は長期間の試験が難しいことが多いので、実施する場合は、臨床使用期間とin vivo試験の試験期間をよく検討してください。
 なお、最新の国内ガイダンスやISO 10993-4:2017では、in vitro試験にはヒト血を用いることが推奨されています。

 in vivoの血栓形成の確認試験は、ウサギ、ブタ、ウシ、ヒツジ及びイヌなどが用いられます。イヌの方が血栓形成されやすいと言われており、血栓症の試験として用いられる例が多いのですが、ウサギでも実施は可能です。ブタより大きい動物では、以前も述べましたように、機能試験の一環として血栓形成を確認していただくのが合理的です。
 イヌやウサギを用いた試験では、頸動脈や大腿動脈などの太い動脈(臨床適用部位が静脈の場合は静脈)に材料を細い短冊状にしたものを留置します。留置時間は4時間以内として、終了後、留置部位の血管を取り出して、血栓形成の有無と程度を肉眼的に観察する方法です。留置時間が4時間以内ですので、全身麻酔下で実施します。ここで、疑問を感じる方も多くいらっしゃると思います。血管内に異物を入れて大丈夫なのという疑問です。確かに血流を乱すだけで、血液凝固など血栓形成がはじまります。血管内ステントをヒトに留置する際でも、一般的に抗凝固処置をしながらの施術であり、その後も一定期間にわたって抗凝固薬や抗血小板薬が投与され続けます。そこで、この試験でもヘパリンなどの抗凝固薬を投与下での試験(AVI, anticoagulated venous implantまたはAAI, anticoagulated arterial implant)があります。また、抗凝固薬なしのモデルもあります(NAVI, non-anticoagulated venous implantまたはNAAI, non-anticoagulated arterial implant)。これらの使い分けは難しいのですが、NAVIやNAAIで陽性となった場合は、AVIやAAIの実施を検討するという使い方ができるかと思いますが、上述したように、抗凝固処置をしないと余程の材料ではない限り凝血してしまいます。既承認品を対照として、凝血の程度を比較するということになるものの、個体差や手術による差が大きく、結果の解釈に苦労することがあります。一方、AVIやAAIでは、抗凝固薬の維持濃度を大きくしてしまうと、当たり前ですが凝固することはありませんので、すべて陰性という結果になり、影響があることを見逃してしまうリスクがあるため、抗凝固薬の維持濃度は慎重に設定しておくべきでしょう。このようにin vivoの血管内留置モデルは、不確定要素が多く、試験法としてはまだまだ改良の余地が大きいと思っています。評価としては、必ず既承認品の対照を設定し、それと比較してどうかという観点で考察することになります。
 いずれにしても、血栓形成が亢進しても抑制されても問題ですので(特に前者)、問題のある結果が得られた場合は、医療機器材料の開発を見直す必要が生じるため、結果は慎重にご確認いただければと思います。
 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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