知的財産の基本から知財ミックスまで【第5回】

2022/10/21 その他

審査請求のタイミングとその留意点について説明する。

(1)はじめに

 前回は、特許出願のタイミングとその留意点について説明しましたが、今回は審査請求のタイミングとその留意点について説明します。審査請求とは、特許庁の審査官に、特許を与えても良いかどうかの実体的な審査をしてもらうように請求する手続です。審査請求は、特許にのみ認められる手続であり、出願しただけでは実体審査されません。なお、商標や意匠は審査請求をしなくても、形式的要件を満たした出願は全て自動的に実体審査されます。
 審査請求をいつ行うかにより、特許にできる時期が変わってきますので、そのタイミングは重要です。

まず、審査請求の留意点について説明します。

  1. 審査請求は、出願日から3年以内に行わなければならないこと
    出願日から3年以内に審査請求を行わないと、その特許出願は原則取り下げられたものとみなされます。取り下げられた特許出願は特許化することができなくなるので注意が必要です。
    以前、日本弁理士会の無料相談員をしていたときに、「1年前に特許出願をしたのですが、いつ頃結果が分かるのでしょうか?」という質問を受けたことがあります。話をよく聞くと、審査請求せずに、審査結果をずっと待っていたことが判明しました。このように、特許出願をしたら自動的に実体審査が行われ、審査結果が通知される、と思っている人もいるようです。
  2. 審査請求は、出願日から3年以内であればいつでも行えること
    審査請求は、出願と同時に行うこともできます。併せて、後述する早期審査請求を行うことにより、早期に特許化を図ることが可能となります。
  3. 審査請求を行うと取り下げることができないこと
    審査請求を行った後、審査請求を取り下げることはできません。審査請求を行う前に、審査請求のタイミングが適切なのか、特許化すべきものなのかを確認した方が良いです。
  4. ほとんどの中小企業は、審査請求に関する減免措置を適用できること
    平成30年度の法改正により、審査請求の減免措置の対象が大幅に緩和されました。その結果、2019年4月1日以降に審査請求を行う場合には、ほとんどの中小企業が減免措置の適用を受けることができるようになりました。減免措置の適用を受けると、審査請求料が1/2または1/3に減額されます。特許出願に慣れていない方は、この減免措置を知らないことが多いようです。ほとんどの中小企業にとって、この減免措置は必須の手続と考えた方が良いと思います。
  5. 審査請求は、出願人以外の者でも行うことができること
    審査請求は、出願人以外の第三者でも行うことができます。気になる他社の特許出願があり、その特許出願が特許となるか否かを早期にはっきりさせたい場合には、第三者である自らが審査請求を行ってもよいでしょう。ちなみに、この場合の審査請求の費用は、出願人ではなく、審査請求を行なう者が負担することになります。

 このような留意事項を考慮した上で、審査請求のタイミングを検討した方が良いと思います。

(2)審査請求のタイミング
 上述したように、審査請求は、出願日から3年以内に行う必要があります。
 一方、審査請求を行う際には、比較的高額な審査請求料(減免措置を適用しない場合)がかかります。
 そこで、まずは次のような事項を検討した上で、審査請求の有無およびタイミングを検討してみては如何でしょうか?

  1. 国内優先権主張出願を行う予定があるか
    国内優先権主張出願を行う予定があるのであれば、出願日から少なくとも1年間は審査請求を行わない方が良いです。国内優先権主張出願を行うと、先の特許出願は取り下げられたものとみなされるからです。
  2. その特許を使った製品の製造・販売の具体的な計画があるか
    具体的な計画がないのであれば、特許化をすべきか否かを判断する期間をできるだけ長くとれるように、審査請求期限の直前まで審査請求を待った方が良いです。その期間中に、特許化した方が良いか検討することができるからです。
  3. 特許出願の発明に抵触している第三者の製品があるか
    特許発明に抵触している可能性が高い第三者の製品がある場合には、早期に権利行使できるように、早急に審査請求を行った方が良いです。早期に特許化して、第三者の製品の販売を差し止めた方が良いからです。

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執筆者について

高松 孝行

経歴

ブランシェ国際知的財産事務 共同代表弁理士。
茨城県出身。東京工業大学大学院にて原子核工学を専攻。大学院での研究経験を生かして、弁理士となる。特許事務所勤務を経て、独立行政法人産業技術総合研究所(現国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研))にて、医薬・医療機器関係の技術を含む技術移転業務に従事。数百社との技術移転交渉、1,000通を超える契約書作成を経験。産総研退職後、2015年3月事務所開設。現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業カタライザーおよび独立行政法人中小企業基盤整備機構の中小企業アドバイザー等の公的機関の専門家として、医学部の教授、医師、医療機器メーカー、医療ベンチャー企業等の支援を行う。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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