医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第29回】

2022/05/20 医療機器

埋植試験について。

吸収/分解性材料と埋植試験

 薬機法における医療機器の定義は、「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等」です。この中でインプラントと呼ばれる医療機器は、「疾病の治療」、「身体の構造もしくは機能に影響を目的とするもの」に該当するかと思います。人工歯根や人工関節、人工血管などは、機能を発揮する組織や器官が不全となったり、欠損したりして、再生することがないため、これらの医療機器に終生頼らざるを得ません。
 一方で、病気の最中や、回復の過程では必要不可欠であるものの、その後、本来の機能が自分の組織や器官により営まれるようになると、不要になる医療機器もあります。骨折時に骨折部位を固定する骨プレートがあります。これは合金でできているものがほとんどで、骨折部位にあててネジで固定しますが、治癒がすすみ、骨が接合すると、それを取り出す手術を行い、骨プレートやネジは用済みとなります。使い続けるものはさておき、要らなくなったものを手術で取り出すというのは、できれば避けたいのが人情です。そこで、体内で一定期間存在した後は、分解して吸収されてしまうタイプの材料の開発がすすんでおります。
 吸収/分解性材料を開発する際は、以下がポイントとなってくるのではないでしょうか。
  ① 生体の機能を代替または補助する期間は十分な強度や性能を有し悪影響がないこと
  ② 生体の機能が回復した後は速やかに吸収/分解すること
  ③ 吸収/分解中に生体に悪影響を及ぼさないこと
  ④ 吸収/分解後には、周囲組織が元通りになるか、悪影響が残らないこと

 前回は埋植部位周囲の安定化ということについてお話しましたが、インプラントの医療機器が生体と親和性をもちながら存在することが、生体適合性上の妥協点です。一方、吸収/分解性材料については、材料自身が安定するということはなく、動的に変化しますので、周囲組織も安定することが難しいという事情を有します(安定と言えるのは、吸収/分解前のある一定の期間か、吸収/分解後ということになります。)。
 もちろん生体にとって、分解産物が為害性のない材料であれば、周囲組織への影響はほとんどないので、そのような材料を用いればよいと言われるかもしれません。ただ、生体組織はよくできたもので、どんな材料であっても、元々そこにあるべきものでない限り、異物とされて排除しようとしますので、ほとんどの材料に関して一定の組織反応は避けることができません。
 このような動的変化を検索するのが、吸収/分解性材料の生体適合性評価において重要なところで、「何かの反応は起きるが、それが激しいものでなく、例え激しくても一過性であったり、全身に影響を及ぼすものであったりはしない。そして、ある段階を過ぎると何もなかったかのように、健常な組織に戻っている。」ことを確認できれば、おおよそ、その吸収/分解性材料の埋植評価としては十分かと思います。
 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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