医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第28回】

2022/04/15 医療機器

今回は、埋植試験において生じる反応と安定化について述べる。

埋植試験における組織反応の安定化

 

 前回、開発した材料をどの組織に埋植するのがよいかということをお話しました。今回は、埋植試験において生じる反応と安定化について述べます。
 これはいつまでの期間、埋植試験を継続するのかという問題に関わります。

 埋植期間の設定として、ガイダンスには、「ヒトにおける埋植反応を予測し得る期間、若しくは、生体反応が安定した状態となるまで」という記載があります。
 「ヒトにおける埋植反応を予測し得る期間」は、簡単に言うと、ヒトと同じ期間埋植すればよいということになりますが、そのための試験デザインは簡単ではありません。おおよその整形外科インプラント材料は、一度適用したら、一生に近い期間体内にとどまることをいとわないで作られたものが多いかと思います。人工関節にしても、人工血管や人工靭帯にしても、おいそれと交換できる代物ではなく、何十年という使用期間が想定されます。一方で、以前もお話したように、実験動物の寿命はそれほど長くありませんので、ヒト並みとまでは言わないまでも、何十年と生きる動物を選んで試験をデザインする必要が生じます。また、例えそのような動物が得られたとしても、何十年も待たないと、最終的な評価ができないということでは、実質的に開発は進みません。
 となりますと、長期インプラント材料にとって、現実的な解は、「生体反応が安定した状態となるまで」を指標として、埋植期間を設定することです。
 では、生体反応が安定するとはどのような状態になることを指すのでしょうか。インプラント材料は、生体由来の吸収分解性の材料を除いて、生体を構成しているものではありません。例えば、整形外科材料で多用されている金属合金しかり、ナイロン製の縫合糸しかり、PTFE製の人工血管や高密度ポリエチレン製の人工関節のライナーしかりです。
 これらはすべて生体にとっては異物ですので、いくら生体適合性があると言っても、100%生体が受け入れている訳ではなく、どんな材料でも、埋植した局所では、国境のように緩衝地帯が形成されます。具体的には、線維性結合組織というものが緩衝地帯を形成します。これは、紡錘形の細胞(線維細胞、線維は繊維と同義ですが医学領域ではこちらで表します)とそれが分泌したコラーゲン線維からなり、生体適合性が高い材料ですと、数層の線維性結合組織が周囲を取り巻いているのみという状況をむかえます。これが、安定化した状態です。生体にとって異物として認識される場合には、国境の緩衝地帯に相当する線維性結合組織が区画するということです。
 では、金属などの異物ではなく、生体組織であれば、国境は形成されないのかという疑問があろうかと思います。昔、乳のみラットにある処理をした大人のラットの卵巣を移植(組織の場合はインプラントとは言わず、トランスプラントすなわち移植と表します)する実験を行ったことがあります。内分泌学の研究での実験だったのですが、まだ目も開いていないような生まれたての赤ちゃんラットを麻酔して、背中の皮膚の中に別の大人のラットの卵巣を埋め込むという実験です。この時期ですと、他家移植に比較的寛容で、短期間ですと顕著な線維性被膜も存在せず、卵巣はきれいに皮下に存在していたことを覚えております。一方で、大きくなったラットに他のラットの卵巣を移植すると、直ちに免疫細胞が大勢やってきて、厚い線維性結合組織が周囲を覆い、毛細血管も周囲に形成されるなどして、卵巣組織は早晩ズタズタになり、吸収されて、最後は跡形もなくなります。
 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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