医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第26回】

2022/02/18 医療機器

今までお話していなかった投与経路と投与量について説明をする。

全身毒性試験結果から考えること

 全身毒性試験は、最も重大な影響としての「死」が得られる結果のひとつとなりますし、ばく露された局所だけでなく他の組織や器官に影響が及んだり、成長が阻まれたりするなど、インパクトが大きく、毒性反応が見られた場合には、最大限の注意が必要です。

 ここで、今までお話していなかった投与経路と投与量のことをご説明いたします。

 投与経路としては、前回、急性全身毒性の経路として紹介した、静脈内投与と腹腔内投与があります。これらはいずれも注射により、直接体内に被験物質をばく露させる方法で、静脈内投与では一気に全身循環に乗って分布しますので全身がばく露されることになり、腹腔内投与でも腹膜の毛細血管から吸収されて門脈を通って比較的短時間で、全身にばく露されます。その他には、経口投与や混餌投与があります。これらは消化管に用いる医療機器や経口投与する医薬品や食品などの毒性評価に用いられます。投与された物質は、消化管で消化、吸収を受け、門脈を通して肝臓に運ばれた後、一定の代謝を受けて全身に分布します。その他には、経皮投与と言って、感作性や皮膚刺激性試験の時のように皮膚に貼り付けてばく露させる方法や、皮下や筋肉に注射する方法、吸入させる方法もあります。
 このような多様な投与経路から何を選ぶのかというと、被験物質がヒトに用いられる経路か、よりシビアと思われる経路を選択することが一般的です。

 次に投与用量のことがあります。医療機器の場合は、医薬品や化学物質とは異なり、溶解や懸濁させた液を投与できることはほとんどありませんので、生理食塩液や植物油で抽出した液を投与します。その投与量は、ISO 10993-11 Annex Bに示されており、下表のとおりです。

皮下 筋肉内 腹腔内 経口 静脈内
ラット 20 1 20 50 40
マウス 50 2 50 50 50
ウサギ 10 1 20 20 10
イヌ 2 1 20 20 10
サル 5 1 20 15 10

(単位: mL/kg体重)

 ただし、筋肉内投与の場合、1注射部位につき、マウスで0.1 mL、ラットで0.2 mLを超えないようにするとされています。以前、COVID-19のワクチンのことを書きましたが、このワクチンの投与量は、0.3 mLでした。体重60 kgのヒトで投与量を計算すると、0.3 mL / 60 kg = 0.005 mL/kg体重で、これと比較すると結構たくさん投与することがわかるかと思います。
 また、経静脈の場合、マウスで50 mL/kg体重ですので、60 kgのヒトであれば、3 Lもの量です。一般に血液量は体重の1/13と言われますので、血液の比重を簡易的に1とすると60 kgのヒトでは4.6 L程度と計算されます。この量の血液が流れている血管に3Lの投与液を注射するという計算です。いかに多量であるかがお分かりいただけるのではないでしょうか。

 このように、ヒトがばく露される経路かよりシビアな経路に、かなりの多量の抽出液を投与して、全身毒性を検索します。
 第23回でお話したNOAELという数値がありました。これは、実験的に求めた無毒性量のことですが、それを例えば100で割って、ヒトが摂取したり、ばく露しても問題がない量を求め、それぞれADI(一日摂取許容量, Acceptable Daily Intake)やTDI(耐用一日摂取量, Tolerable Daily Intake)として、食品添加物や環境化学物質をはじめとして、さまざまな物質の限度値が定められています。除する係数100は、ADIでは安全係数、TDIでは不確実係数と呼ばれていますが、根拠としては、種差10×人種差10×追加係数1で、場合によって追加係数が1以上になることがあります(どう考えても種差と人種差が同じとは思えませんが、一定の決め事として理解いただければと思います)。
 実験動物を用いて全身毒性試験を実施し、何らかの毒性が見られた用量のひとつ下の投与量を無毒量と定義し、それでは不安(不十分)なので、その1/100以下を摂取しても問題がない量としようという論法です。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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