医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第25回】

2022/01/21 医療機器

全身毒性試験の種類と違いとは。

全身毒性試験の種類と違い

 今までお話したとおり、全身毒性試験には、投与期間に応じていくつかの種類があります。
第23回でもお示しした表に、その特徴を加えて再掲します。ばく露期間は、国内ガイダンスやISO 10993-11:2017を引用しております。

全身毒性の種類     ばく露期間 特徴
急性全身毒性 単回または24時間以内の継続的ばく露 単回投与が基本で、複数回に分ける場合でも24時間以内、ばく露後72時間までの反応を観察
亜急性全身毒性 反復または継続的ばく露後24時間以降28日まで(一般的に14~28日)
静脈内投与の場合は、24時間より長く14日間より短い
経口投与では一般的に14~28日であるが、静脈内投与の場合は、14日未満の反復投与
亜慢性全身毒性 げっ歯類では90日間、他では寿命の10%を超えない期間
静脈内投与の場合は、14日間から28日間
寿命の一部(1/10)の期間にわたる反復投与
慢性全身毒性 通常、6~12ヵ月間 寿命の一部(10%)を超える期間

 亜慢性毒性試験の投与期間は寿命の10%とされていますが、10%と言ってもいろいろな動物の寿命がわからないので、何とも言いにくいですよね。一般的にげっ歯類のマウスやラットは2~3年程度です。真ん中をとって2.5年とすると、30ヵ月ですので10%は3ヵ月、すなわち90日程度で、表にある90日はこれが根拠なのかなと思っております。一方、イヌになると、飼育環境で大きく異なりますが、屋内の良い環境で飼育されると15年程度は生きると思いますので、10%だと1.5年です。チンパンジーは40年程度の寿命があるとされていますので、10%で4年です。マウスやラットなどのげっ歯類がよく用いられるのは、比較的寿命が短いこと、動物のサイズが小さいため飼育が容易であること、多産であり繁殖しやすく1匹あたりのコストが低いことなどが理由です。ヒトに近い動物を用いる方がよいのは誰しも否定されないと思いますが、チンパンジーを用いると、亜慢性毒性試験だけで何年もかかってしまいますので、開発が進みませんし、今の世の中で、チンパンジーを毒性試験に用いることは、社会的にまず許容されません。ただ、カニクイザルなどのサルは、今でも実験動物として医薬品開発に用いられております。
 余談ですが、世界で初めて宇宙に行ったのは、スプートニク号に乗ったライカというイヌです。また、私の若い頃でも実験動物としてすでにチンパンジーはほとんど使われていませんでしたが、自動車の衝突実験には使われていたようです(今はダミー人形に代わっていますのでご安心ください)。このようにネズミに限らず様々な種類の動物は、長きにわたり人間社会の発展に貢献しています(もちろん家畜のミルクや肉は、日々の栄養も提供してくれています)。

 このように投与期間によって、全身毒性がいくつかに分かれていますが、試験法の違いとしては、第一に動物数が挙げられます。下表が推奨される1群あたりの動物数です。

  げっ歯類 非げっ歯類
急性全身毒性 5 3
亜急性全身毒性 10(雌雄各5) 6(雌雄各3)
亜慢性全身毒性 20(雌雄各10) 8(雌雄各4)
慢性全身毒性 30(雌雄各15) 明示なし

 投与期間が長くなるほど必要動物数が増えるのは、長期の投与によって死亡する可能性を前提にしているため、統計学的に評価が可能になるようにしていると考えていただいてよいかと思います。
 参考までに、マウスやラットは、ヒトと同じく、老齢になると自然発生として腫瘍が多く見られるようになります。良性でも周囲の正常組織を圧排して機能不全とすることにより死因となります。マウスやラットの悪性腫瘍は、あまり遠隔転移は多くはないものの、周囲に浸潤、増殖して死因となりますし、白血病などの血液の癌もあります。ただ、通常は1歳以上になると発生する腫瘍が多いため、慢性毒性試験で自然発生の腫瘍が多発することはないかと思います。このように自然発生としても腫瘍の発生が見られるため、発がん性試験では、通常雌雄各50匹以上の動物を用います。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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