医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第24回】

2021/12/17 医療機器

全身毒性の用量反応性と閾値について。

全身毒性の用量反応性と閾値

 「薬も過ぎれば毒となる」、「毒薬変じて薬となる」、「毒にも薬にもならぬ」など、薬と毒に関することわざがありますが、ここに挙げた3つは、いずれも用量反応性や薬効と毒性の関連を述べたものです。

 量が増えると反応も増強するというのが、一般的な用量反応性です。また、たいていの場合、一定量までは反応しないレベルがあり、それを閾値と言います。
 毒性反応を考えると、あるレベルまでは何ともなかったが、それを超えると何らかの毒性反応が現れるか、一部が死亡するなどの有害作用が現れます。そして、量が増えるにしたがって、その反応が増強し、様々な反応が生じたり、毒性反応を示す割合や死亡が増加するというのが、用量反応性という現象です(「第4回 過ぎたるは及ばざるがごとし」参照)。
 毒性反応の究極は「死」です。死を毒性反応としてその数を縦軸に、横軸を用量として、用量反応関係を描くことが、以前は度々行われてきました。LD50という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。Lethal dose 50%の略で、半数致死量や50%致死量とも呼ばれます。この値の求め方としては、主にマウスやラットなどのげっ歯類を1群10匹程度の群に分け、その群ごとに投与用量を設定して投与し、投与後14日以内の各群の死亡数をカウントして、そのデータからプロビット法など統計学的手法を用いて算出するというものです。群数は多いときには10群近くになり、雌雄で試験するので、200匹程度の動物が必要となるような試験です。私も若いときにはさんざん試験を実施しましたが、とても動物福祉の観点から許容できるとは言えない数の動物を用います。年に一度の施設の動物慰霊祭では、心の中で申し訳ありません、成仏してくださいと祈っておりました。
 最近では、LD50値が、2000 mg/kg体重以上であれば、急性毒性はないとみなすということが一般化しましたので、ほとんどこのようなフルのLD 50試験は実施されていないと思います。
 ただ、このLD50値は、致死毒性の強弱を示すのにはわかりやすい数字です。
 参考として、いくつかの物質のLD50値を下表にお示しします。

物質名 LD50値(mg/kg体重)
ボツリヌスト菌毒素(A型) 0.00000037
シアン化カリウム(青酸カリ) 3~7
塩化ナトリウム 3000~3500
エチルアルコール 7000
ビタミンC 12000
砂糖 29700

https://www.maff.go.jp/hokuriku/safe/consumer/heya/attach/pdf/dezitaru_nouyaku-4.pdf
https://www.jacom.or.jp/noukyo/rensai/2019/12/191213-39894.php

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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