医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第23回】

2021/11/19 医療機器

全身毒性について。

全身毒性とは

今回から全身毒性についてお話したいと思います。

皆さま、COVID-19のワクチンは接種されましたでしょうか。接種された方の副反応はいかがでしたでしょうか。
よく認められる症状は、注射した部分の痛み、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉や関節の痛み、寒気、下痢等だそうです。私も9月下旬に2回目の接種を終えましたが、注射部位の痛み、38℃程度の発熱、倦怠感、筋肉や関節の痛み、寒気と、少しフワフワするような浮遊感を感じました。接種翌日がピークとなり寝込んでしまいましたが、翌々日は飛行機に乗れる程度に回復しました。
今まで種々のワクチン接種を受けたことがありますが、ここまで強い副反応があった経験がありません。これはもとのウイルスの生体影響が強いせいか、mRNAワクチンという新しい医薬品ならではの反応なのかいずれなのでしょうね。たかだか0.3 mL程度の液体を筋肉内注射するだけで、結構の反応があるのが不思議だと思っておりました。
いささか長々とワクチンの副反応について書きましたが、これがすなわち全身毒性、特に投与直後や数日の反応ですので、急性全身毒性反応です。毒性とすると言葉が強いのですが、身体にとって良かざる反応という意味で、あえて毒性と表記させていただきます。
副反応は投与部位の局所反応と全身反応に分けられますが、おそらく筋肉に投与されたmRNAがその近傍の筋細胞などに取り込まれて、遺伝子がコードするウイルスのスパイクタンパク質のみが産生され、それに対して免疫反応が生じることで、局所の痛みや風邪のような全身反応が生じると考えてよさそうです。対症薬として、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)などやアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤を服用することが許容されています。前者の薬理作用としては、体内でのプロスタグランジンという炎症や発熱を引き起こす物質の産生を抑制しますし、後者は中枢の体温調節中枢に作用して、解熱作用を示すことが知られています。このような作用機序により薬理作用を示しますが、これはウイルスに感染した時の反応に類似しており、副反応はmRNAが体内で産生させたウイルスのスパイクタンパク質の出現で、ウイルスが来たと免疫系が勘違いして、反応を引き起こした結果と言えそうです。
正確なところは今後の研究を待つ必要がありますので、間違っておりましたらご容赦いただきたいのですが、これがCOVID-19による全身毒性反応(副反応)であり、作用機序はそれなりに複雑だということがお分かりいただけるかと思います。

全身毒性と対になるのは局所毒性です。注射部位の痛みは局所の刺激反応であり、全身毒性ではないのですが、ISO 10993シリーズの全身毒性のパートであるpart 11では、全身毒性を「身体と医療機器の接触部位に限らない毒性」と定義しているように、それも含んで全身毒性と定義します。このようにお示しすると、頭の良い方は、「だったら、刺激性や埋植は全身毒性で評価すればいいじゃないか。」と思われるではないでしょうか。確かに一理あります。ただ、次回以降で試験方法について述べますが、医療機器の急性全身毒性試験は抽出液を調製して、静脈内投与や腹腔内投与によりばく露しますので、投与後直ちに注射液は全身ないし腹腔内に拡散してしまい、臨床適用方法としてしばらく接触するような使い方の医療機器の刺激性を評価するには無理があります。一方で、埋植試験で局所反応を見るついでに全身毒性も検索するというのは、できなくはないお話で、これについても、別のときに詳しくお話させていただきます。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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