医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第21回】

材料由来の発熱性について解説する。
材料由来の発熱性
発熱性とは、文字通り体温を上昇させる作用のことで、ここでわざわざ「材料由来」としているのは、製造工程中のコンタミネーションによる発熱性は、評価対象ではないということです。
国際規格のISO 10993シリーズには、発熱性のパートはありません。全身毒性のパートであるISO 10993-10のAnnex(付属書)として挙げられています。
発熱を引き起こすものには、大きく分けて内毒素(エンドトキシン)と材料由来の化学物質があります。
内毒素(エンドトキシン)はグラム陰性菌という例えば大腸菌やサルモネラ菌の細胞壁成分のことで、それが血中に入った際に、サイトカインを介して脳の体温調節を担う中枢に影響して体温が上昇します。「大腸菌は大腸の中に山ほどいるのになぜ発熱の原因にならないの?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、大腸粘膜が菌やエンドトキシンの侵入を防いでいるためで、もしこのバリアが破壊されると深刻な発熱が生じます。そして、発熱を起こすのはバクテリアの細胞壁に含まれるエンドトキシンですので、死菌となって分解して遊離した細胞壁成分が作用します。また、エンドトキシンは耐熱性で、煮沸程度では完全に分解することが難しく、水分のない状態で失活させるには、250℃30分以上の加熱が必要です。したがって、エンドトキシンは医療機器にグラム陰性菌が付着して、医療機器の滅菌などにより死菌となった後でも、活性を有します。つまり、無菌試験が陰性でも、エンドトキシン試験では検出されることがあるということです。ただ、このような汚染は材料そのものの属性に起因するものではなく、製造工程中のコンタミネーションなどに由来しますので、生物学的安全性というよりは、製造管理としてエンドトキシンをコントロールするという方向になります。しかしながら、例えばコラーゲンやアルギン酸など天然由来成分から成る医療機器の場合、原料にエンドトキシンが含まれる可能性が高いため、把握しておくことが大切です。
材料由来の化学物質の例としては、ISO 10993-10のAnnexに以下のようなものが挙げられています。
- 内因性発熱性物質(例: IL-1、IL-6、TNFα、INF-ɤ)
- ブロスタグランジン
- 誘発物質(例: ポリアデニル酸、ポリウリジル酸、ポリビオシノン酸及びポリリボシチジル酸)
- 発熱調節中枢の機能を阻害する物質(例: LSD、コカイン、モルヒネ)
- 酸化的リン酸化の脱共役剤(例: 4,6-ジニトロ-o-クレゾール、ジニトロフェノール、ピクリン酸)
- N-フェニル-β-ナフチルアミン及びアルド-α-ナフチルアミン
- 細菌性外毒素(例: TSST-1、SEA、Spe F、Spe C)
- 神経伝達物質(例: ノルアドレナリン、セロトニン)
- ニッケル塩などの金属
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