知的創造性を革新する組織と空間実現のメソッドプログラミング【最終回・第9回】

2018/10/12 施設・設備・エンジニアリング


前回はファンケル社の事例でしたが、今回はBMWの革新的なプロジェクト・ハウスについてお話をいたしたいと思います。
 
BMW、プロジェクト・ハウス(外観)
BMWは世界で最もイノベーティブな企業の一つであります。またBMWはイノベーションの管理を集中的に取り組んでいます。BMWのプロジェクト・ハウスは、トーマス・アレンとドイツの著名な建築家・ギュンター・ヘンがBMWの役員と長い時間を掛けて、製品開発のための組織構造と空間構造の関係を研究した成果を、施設に実現した革新的な製品開発施設であります。

組織構造
BMWの製品開発組織は基本的にマトリックス構造であります。私も長い間、同じ組織構造で業務を行っていました。この組織構造は目標を達成するのには適した構造ですが、技術チームとプロジェクトチームの対立などいくつかの問題があります。
アレンとヘンはこのBMWのプロジェクト・ハウスの空間構造によってマトリックス構造組織の問題点に優れた一つの解答を出しております。​


組織関係の課題とイノベーションの関係
1.トーマス・アレンとギュンター・ヘンは製品開発のイノベーションはテクノロジーとマーケットの両方からの情報を仲介するプロセスであると考えています。
 
2.技術の機能組織は一般的に専門に特化した組織になっています。テクノロジーの
動向を敏感に捕らえるには都合の良い仕組みですが、マーケットをうまく捉えることが出来ません。何故ならばマーケットのニーズは製品とサービスであります。専門別の組織でも捉えることが出来ますが長い時間をかかります。また技術組織間のコミュニケーションもスムーズには行きません。従って機能部門が強いと技術者は満足するが消費者は満足しない製品が開発される可能性があります。そこでプロジェクトチームが編成されマーケットに対応した技術の融合を図るわけです。
 
3.マトリックス構造は機能チームとプロジェクトチームのツー・ボスの組織なりますが経営陣にとってマーケットが重要ですから、どうしてもプロジェクトチームのほうを優先する傾向にある。その結果、技術の動向に弱くなり、マーケットに受け入れられるが技術的に満足しない製品が開発される可能性があります。結果的にマーケットから見放されることになります。
 
4.マトリックス構造の組織で仕事している人間は分かるのですが、2つの組織には常にバトルが起きます。そのバトルは基本的に避けられないのであります。しかし2つの組織のバランスが取れている場合、適切な技術情報とマーケット情報がプロジェクトを構成しているチームの中に流れ、活発なコミュニケーションが起こり、製品開発のイノベーションが起こるのです。どちらかが強くならないようにバトルを管理することがイノベーティブな製品を創出する、重要な組織運営であります。​


平面図
その問題の答えがこの空間構造であります。この空間構造は、基本的にマトリックス組織の構造なっています。しかし組織構造をそのまま空間構造にしているわけではありません。マトリックスの組織構造が、プロジェクトの進展にフレキシブルにスムーズに、スピーディーに対応できるように考えた空間構造であります。


 
吹き抜けの外側は機能部門の領域で、中央がプロジェクトチームの領域です。プロジェクトチームと機能部門が常に互いに見える状態で、すぐアクセスできるようにしてあります。
プロジェクトの進行状況が可視化されています。従って進展状況に応じて、機能部門は必要な技術サポートや人材がすぐに供給が出来るわけです。プロジェクトチームと技術チームと常にコミュニケーションでき、互いに状況が理解できています。したがってバトルの管理が容易であります。
中央の吹く抜けが空間を一体化しているため、マトリックス構造の問題点であるプロジェクトチームも孤立せず、プロジェクトチーム同士や機能部門とのコミュニケーションもよく、組織構造の問題を解決し、その特性を最高に実現した空間構造になっています。
 
断面図
断面図を見るとさらに、立体的にそのことが理解できると思います。青の部分が吹き抜けです。この吹き抜けが上下、左右全体の見える化を実現し、プロジェクトが中心で重要であることを、視覚的に意識させ、周囲の機能部門がそれをサポートする、組織全体でプロジェクト実現させる、非常に優れた空間構成であることが分かります。


内観写真
組織構造と空間構造が最適に管理された製品開発施設になっていると思います。
次の写真を見ると少し理解が深まります。このプロジェクト・ハウスから、近年優れた製品が生み出され、BMWの大きな躍進になっている。

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執筆者について

糀谷 利雄

経歴 1967年明治大学理工学部建築学科を卒業。
1982年大手エンジニアリング会社入社。
医薬を中心に、生産施設、研究所など多数のプロジェクトに参画し、高生産性を実現する施設のコンセプトを計画・設計する。
現在、株式会社シーエムプラス フェロー
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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