連続生産【第2回】

2018/05/07 製剤

はじめに
 連続生産は、現在、医薬品製造において注目されているトピックの一つであり、連続生産の導入に向けた環境整備が進み出したことから今後の進展に大きく期待が持たれている技術である。連載第2回は連続生産を行う場合の管理戦略及びProcess Analytical Technology(PAT、プロセス解析工学)の活用について記述したい。
 
1. 管理戦略とは
 医薬品製剤開発において「管理戦略」とは、ICH Q10「医薬品品質システムに関するガイドライン」において「最新の製品及び製造工程の理解から導かれる、製造プロセスの稼働性能及び製品品質を保証する計画された管理の一式。管理は、原薬及び製剤の原材料及び構成資材に関連するパラメータ及び特性、設備及び装置の運転条件、工程管理、完成品規格及び関連するモニタリング並びに管理の方法及び頻度を含み得る。」と定義されている。ここで用いられている管理戦略は一般的な戦略という単語とは意味が異なり、将来的な展望は入らず、すでに達成されている「管理の一式」という意味合いである。ガイドラインにおいては難しい言い回しをされているが、管理戦略を簡単に言い換えれば、「医薬品の品質を担保するための管理の要点」を示したものであり、製品における含量均一性や溶出性といった重要品質特性(CQA)をどのように管理するかを提示した重要な承認申請資料である。例えば、2008年に公開された品質に関する概括資料サクラ錠モック(1では、管理戦略のうち、含量均一性においては混合工程にインライン近赤外モニタリングシステムを設定し、フィードバック・ループにより混合均一性を管理するとしている。さらに打錠工程での打錠圧力のモニタリングにより錠剤質量を管理することにより錠剤の含量均一性をリアルタイムリリース試験により管理している。これは一般的に用いられてきた一定の時間で混合工程の終点管理を行い、含量均一性をHPLCで行う方法とは異なるEnhancedな管理戦略である(図1)。このように最終製品試験により管理するか、リアルタイムリリース試験により管理するか、管理戦略の選択は妥当性が証明できれば自由であり、一律に製品全てを同じにする必要はなく、様々な管理戦略の選択肢が存在する。そしてこの管理戦略の妥当性は、承認申請資料中に管理戦略と合わせて記載するのが一般的になりつつある。管理戦略についてはICH Q8の補遺に記述されているとともに、AMED研究班でその定義を詳細に議論している(2のであわせて参考にされたい。


図1 サクラ錠の混合工程における管理戦略の選択

2. 連続生産の管理戦略
 管理戦略を構築する上で必要となる製品のCQAは、バッチ生産と連続生産で本質的な違いはない。しかし、連続生産に使用する機器・設備はバッチ生産とは異なることからCQAの管理の方法は必然的に異なる。バッチ生産では基本的には同バッチではほぼ均一な品質の製品ができる。その品質の幅はワーストケースを想定してバリデーションすることにより予測が可能で、ワーストケースであっても目的とする品質に適合するようにすれば良い。しかし、バッチ生産では開発段階で構築した工程パラメータによる管理戦略をスケールアップの際にそのまま使えない欠点がある。一方、連続生産はスケールアップの必要性がほとんどなく、一般的には開発段階から商用生産まで同一の製造装置が用いられるので、商用生産のためのスケールアップが必須なバッチ生産よりも容易に、開発段階で構築した工程パラメータによる管理戦略を適用できる利点がある。しかし連続生産では、連続的に原料又はそれらの混合物が製造工程内に供給され、生産物が継続的に取り出されるため、稼働時間中に継続して同一の品質の生産物が産出されるとは限らない。製造中に起こり得る様々な変動により、目的とする品質に適合しない製品が一時的に産出される可能性もある。そのため連続生産の導入に当たっては、製造プロセスの稼働性能及び製品品質について恒常的な保証を提供する状態、いわゆる、ICHQ10において記述さている「管理できた状態」が維持される管理戦略を構築する必要がある。現在のところ一番明確に「管理できた状態」とその妥当性が示せる方法としては、PATにより常時モニタリングし、製品品質を保証する管理戦略を構築することである。PATツールの利用が困難な場合では、工程パラメータとCQAとの関連を理解し、パラメータ管理を行う管理戦略を構築することもできるが、PATよりは信頼性は低くならざるを得ない。別の方法として反応槽内の滞留時間分布を推定する Residence Time Distribution (RTD)モデル等で製造工程をシミュレーションすることにより、動的特性を把握していれば、「管理できた状態」を維持できる場合もあるが、これは次回以降に紹介したい。 

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執筆者について

小出 達夫

経歴 国立医薬品食品衛生研究所 薬品部
1999年、国立医薬品食品衛生研究所大阪支所薬品試験部に入所。2004年より国立医薬品食品衛生研究所薬品部主任研究官となり現在に至る。研究テーマは医薬品製造、分析におけるQbDの適用、製剤のイメージング。 
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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