医薬品開発における非臨床試験から一言【第50回】

2024/02/09 非臨床(GLP)

日本での薬物相互作用評価の規制まとめ②です。

 

日本での薬物相互作用評価②


日本における薬物相互作用(DDI)評価の規制で、トランスポーター、薬物代謝酵素などについて取り上げます。この分野では、日本が世界に先駆けて示した研究も多く、消化管におけるトランスポーターを介したDDI研究、代謝酵素の阻害に関するシミュレーション、酵素誘導評価におけるmRNAの定量などが精力的に進められてきました。

2018年に発出された日本の薬物相互作用ガイドライン(JP-DDIガイドライン)を参照しますと、消化管におけるトランスポーターは大きく2つに分類されます。経口投与された薬物が、消化管上皮細胞の管腔側の細胞膜上に存在している取込みトランスポーターにより吸収される場合、同じトランスポーターにより吸収される他の薬物又は飲食物成分との間に相互作用が生じ、薬物の吸収が低下することがあります。いわゆるDDIです。

一方、小腸管腔側の細胞膜上には排出トランスポーターが存在し、薬物が管腔側から上皮細胞中に取り込まれた後、基底膜側(門脈側)に移行する前に、排出トランスポーターによって小腸管腔側へ排出される場合があります。ここに、P-糖蛋白質(P-glycoprotein(P-gp))が存在しています。排出トランスポーターの阻害により薬物の吸収が増大する薬物相互作用や、消化管における排出トランスポーターであるP-gpの発現誘導により、薬物の吸収が低下するDDIが生じます。

消化管上皮細胞の管腔側にはP-gpに加えてBreast Cancer Resistance Protein(BCRP)が存在しており、これらは排出トランスポーターとして、基質となる薬物の消化管吸収を低下させます。一方、P-gp又はBCRPの基質と阻害薬の併用により、基質の吸収が増大する可能性があります。被験薬がP-gp又はBCRPの基質となる可能性、並びにP-gp又はBCRPに対する被験薬の阻害作用については、原則としてin vitro試験により評価します。

消化管における薬物代謝酵素を介したDDIが生じる場合もあります。消化管、特に小腸粘膜には、CYP3A(CYP3A4及びCYP3A5)が多く存在しています。そのため、小腸においてCYP3Aによる初回通過代謝を大きく受ける被験薬では、CYP3Aを阻害する薬物の併用により、見かけ上のバイオアベイラビリティ(吸収率)が増大します。逆に、CYP3Aを誘導する薬物の併用により肝臓と同様に小腸においてもCYP3Aが増加すると、被験薬の代謝が亢進して、結果として血中濃度が低下します。このようなDDIが生じることを前提に、被験薬の初回通過代謝の程度等を考察し、必要に応じて小腸におけるDDIを検討します。被験薬がCYP3Aを阻害する場合には、小腸における代謝阻害の観点からの検討を行います。

DDIの観点では、CYP3A阻害を示す飲食物中の成分の影響も考慮する必要があります。例えば、グレープフルーツジュースにはCYP3Aを強く阻害する物質が含まれています。そのため、グレープフルーツジュースと同時、又はグレープフルーツジュースの摂取後に、CYP3Aにより主として代謝される経口薬を服用した場合に、当該経口薬が代謝されず、バイオアベイラビリティが上昇する可能性があります。柑橘類については、ジュースと生食の比較なども興味深い情報もありますが、一般論が難しいようです。また、メカニズム上、CYP3AとP-gpの両方が阻害又は誘導される場合があり、CYP3Aの基質はP-gpの基質であることが多く、その両方が阻害又は誘導された場合のDDIのリスクを念頭に置いて評価します。

組織移行及び体内分布におけるDDIについて考えてみます。薬物が血漿中において結合する蛋白質は主にアルブミンですが、一部の薬物はα1-酸性糖蛋白質、リポ蛋白質等に結合します。In vitroで血漿蛋白質との結合率が高い(90%以上)被験薬のDDIを検討する際には、結合蛋白質の種類と結合の程度を明らかにしておく必要があります。DDIにより被験薬の体内分布が変化する原因のひとつとして、血漿蛋白質と結合した薬物が置換される場合があり、例えば、血漿蛋白質と強く結合する併用薬により被験薬が結合蛋白質から遊離し、血漿中非結合形分率が上昇します。
 

 

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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