医薬原薬の製造【第30回】(前編)

前回、蒸気節約機器として、多重効用缶 (Multiple Effect Evaporator = MEE) 、機械式蒸気圧縮蒸発缶(Mechanical Vapor Recompression Evaporator = MVRE) を紹介し、その熱効率について考察してきました。これらの機器によって、蒸気がどの程度節約できるのは分かりましたが、蒸気はどれほどの値段で製造されるのかが、分からないと費用節約効果を計算することができません。
 
さて医薬原薬工場では熱源としてスチームを使っている工場がほとんどです。スチームはボイラーで製造されます。ここでは、ボイラーによるスチームの製造について、コスト計算、ボイラーの構成から省エネについて考察してみたいと思います。

重油ボイラーによる蒸気製造変動費
まず最初にボイラーによる蒸気製造変動費がどの程度なのか?最もよく普及しているA重油を燃料とするボイラーの場合について検討してみます。計算の原理は簡単です。燃料単価に重量当たりの蒸気エネルギーをかけ、燃料の燃焼熱にボイラー効率を掛けたもので割ることで計算ができます。
 
さて医薬原薬工場では熱源としてスチームを使っている工場がほとんどです。スチームはボイラーで製造されます。ここでは、ボイラーによるスチームの製造について、コスト計算、ボイラーの構成から省エネについて考察してみたいと思います。

計算に必要なパラメーターは以下です。

     : 燃料単価(\/kg)
     : 燃料低発熱量 (kJ/kg)
     : ボイラー効率
     : 蒸気エンタルピー (kJ/kg)
     : ボイラー供給水エンタルピー (kJ/kg)
     : 蒸気単価

燃料低発熱量とありますが、この意味は以下です。燃料の燃焼によって水が発生し、水蒸気となります。この水蒸気は蒸発潜熱を持っているわけですが、この蒸発潜熱を除いた発熱量を燃料低発熱量といいます。ボイラーの燃焼の場合、発生した水蒸気を凝集させて潜熱を利用することができれば、蒸発潜熱を含めた燃料高発熱量を使うことができます。しかし、通常のボイラーでは燃焼ガスを使って水を蒸発させて蒸気を作成しますので、熱交換した後の燃焼ガスの温度は当然のことながら100℃以上となりますので、燃焼によって発生した燃焼ガス中の水蒸気の蒸発潜熱を利用することはできません。従って、低発熱量の数字を使います。蒸気単価は以下の式で計算できます。


ここで、以下の数字を使ってCsを計算していきます。
     A重油比重:0.8684、
     重油価格Cf=66.6(\/L)=76.6(\/kg)、
     蒸気圧力0.5MPa、
     Eb=0.9,
     ボイラー供給水20℃
重油価格(L当たり)は、以下のHPで確認できます。      経済産業省資源エネルギー庁のHPです
     大型ローリー全国平均H29年5月:58.5円/L(8KL以上)
     小型ローリー全国平研H29年5月:66.6円/L
 
Es, Ewは蒸気表を見ると分かります。

     = 42.7 (MJ/kg)
     = 2748 (kJ/kg)
     = 83.9 (kJ/kg)
= 5,316 (\/ton)

蒸気圧力0.4MPaの場合もさほど変わりありません。蒸気を作るための燃料コストは、A重油でおよそトン当たりおよそ5300円であることが分かります。なおこのコストは、蒸気製造の燃料コストですので、原料となる水のコスト、ボイラー供給水の精製コストは含まれております。
 
水は水道水を使った場合、コストは40-350円/トン程度です。水道の料金は地方自治体によってさまざまです。小生が勤務した旭化成ファーマの工場が立地していた大仁町は全国的有数の安い水道料金でした。45円/m3程度だったと記憶しています。ところが大仁町は、周辺町村と合併して、伊豆の国市になり、水道料金は100円/m3弱まで値上がりしました。また筆者が長く住んだ宮崎県延岡市の場合、135円/m3程度です。全国平均は171.92円/m3となっています(地方公営企業年鑑63集)。
 
工業用水道事業を行っている自治体に工場が立地する場合、工業用水道水をボイラー原水として使用することができます。この値段も自治体によってさまざまです。13-100円/m3程度になっています。(地方公営企業年鑑63集)工業用水の全国平均供給単価は30.21円/m3となっています。ということで水のコストは、工場の立地場所によって大きく変化します。
 
ここでは、水道水の全国平均供給単価170円/m3と仮定します。後に詳述しますが、供給水の一部はブロー水として捨てられます。ブロー率を10%程度とすると、水の変動費は、170/0.9=189円/kgとなります。0.5MPa蒸気製造の変動費は(全国平均水道料金+A重油市場価格)はほぼ5500円/トンとなります。
 
上記の計算ではまだ織り込まれていない変動費もあります。それは蒸気製造に使用する原料水の前処理費用です。これは後に述べます。ボイラーではトラブルを避けるため、ボイラー供給水は、Mg,Caなどの2価イオンを軟化器で除いたり、溶存酸素、CO2を除いたりする必要があります。この前処理の費用もかかることを念頭に置いておかねばなりません。

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