ゼロベースからの化粧品の品質管理【第34回】

2023/07/28 化粧品

今回は、GMPにおける経営者の責務と実際の運用について。

―GMPにおける経営者の責務と実際の運用について―

 化粧品GMPに関して、規格要求事項の中で運用面において気になる事項についてお話させて頂いています。今回はほとんど話題にならないもののGMP体制の整備の面で極めて重要な『経営者の関与』についてお話します。
 GMPの監査や査察において、経営者へのインタビューが先ずは行われていると思います。勿論、ISO22716の要求事項についてはあまり明確にされていないため、cGMPの審査のように明確に審査が行われることは少ないように感じます。
 本来は、経営者に対する審査として、GMPの運用面およびGMPにおける責務の面から審査が行われなければいけませんが、経営者に対して監査を行うことはあまり無いように感じます。如何でしょうか?また、監査を実施する場合においてもGMP事務局の方が同席したり、品質部門の方が同席したりして、経営状況について経営者が説明するものの、GMPの運用に関しては同席者が答えることが多く、経営者に対する監査とは言えないように感じますが如何でしょうか?
 そこで、今回は化粧品GMPの運用において、必要な資源の確保や安全・安心のモノづくりにおける経営者、トップマネジメントの責務について考えてみたいと思います。
 『実務面は現場管理者に任せる』と経営者に言わせないために、GMPにおける経営者の責務について化粧品工場のGMPの運用に係わる方が先ず理解し、経営者に働きかけて頂くことが重要と考えます。
 それでは具体的にISO22716における経営者への要求事項を確認し、不備になり易い事項について説明します。

1.ISO22726における経営者への要求事項
(規格項目)
● 3.3.1.1 組織は会社の上級経営者に支えられていること⇒GMPの組織図において上級経営者として定義している人は、人事権や必要な投資や製品の品質に関して決済権を有していることが必要です。また、GMPで定義された上級経営者はGMP運用に対する必要な判断や指針を示していることが必要です。組織図で上級経営者、経営者を工場長と定義されているケースがありますが、その場合には化粧品のモノづくり全般にわたって工場長が全ての責任を担っていることが必要です。社長直轄で工場長が位置づけられている場合は問題ありませんが、担当役員がいる場合には関与の状況と権限の面からGMP組織への反映を考慮する必要があります。
● 3.3.1.2 GMPの実施は上級経営者の責任とし、社内の全ての部門及び全ての職員に対して参加と積極的な関与を求めること⇒品質目標や品質方針を示してそれに対する進捗に対して必要な方向性を示していることが責務の一つになります。
● 3.3.1.3 経営者は、権限所有者の立ち入りが許されている区域を規定し、示すこと
⇒多くは工場長の名前でゾーニングと立入制限が指定されます。各部署や品質保証部門の名前で規定されているケースも目にしますが、GMPの要求からは適合しません。
 

 これらの記載の中で、上級経営者は一般的には薬事担当役員や工場長が該当します。薬事担当役員を上級経営者として定義されている化粧品製造所においては、規格要求項目に対応した活動が具体的にどのように行われているのか明確にする必要があります。これまた厄介な話となりますが、大きな組織の会社では薬事関連の役員と工場を担当する役員が別のケースがあります。その場合には、人の配置や化粧品の品質についてそれぞれ決裁や指針を示すのは誰が行っているのかを明確にしてGMP組織図を作成する必要があります。
 また、細かな話になりますが、そもそもGMPの組織について、上級経営者や経営者がどこまで関与されているのか疑問を感じるケースがあります。特に、対外的な薬機法に基づく責任技術者を有資格者の中から選定している場合には、職制面から見ればGMP運用について総括的な責任と権限を持っているとは考え難く、更に、本社役員を上級経営者と定義している組織図では、上級経営者がGMPの責務が分かっているのか、機能しているのか疑問を感じるケースがあります。
 また、GMP上での経営者は日本では薬事上との整合性からは、一般的には薬事における責任技術者が該当しますが、GMP上で経営者を特定する場合においては、海外では工場長になりますが、日本では薬事上の責務とGMP上の責務からは必ずしも工場長では整合性がつかない場合や責任技術者とすると職制との整合性とGMP上の責任と権限から妥当性で矛盾が生じるケースがあるため注意が必要です。

 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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