医薬品開発における非臨床試験から一言【第41回】

2023/05/12 非臨床(GLP)

代謝物の安全性評価について。

代謝物の安全性評価の悩み

創薬過程における代謝物の安全性評価は薬物動態部門の大きな課題であり、さらには安全性部門(毒性)の課題でもあります。今回から、『代謝物の安全性評価』をテーマに取り上げて議論させていただきます。規制要件については、PMDA発信の情報に注意し、進化して成熟したICHおよびFDA等の考え方を取り入れて対応することが重要と思います。

代謝物の安全性評価は、探索試験を含む創薬段階、臨床開始段階、申請段階でのステップに応じた着実な情報の進化を考えたいものです。そのためには、研究方法論なども含めた科学的な理解を目指し、規制要件を踏まえたケースバイケースの対応と、柔軟な知識の広がりが必要です。そこで、代謝物の安全性評価の悩みを取り上げて、その解決策を考えてみます。

動物で低曝露、ヒトで高曝露の代謝物について、代謝物標品の合成が極めて困難なため、標品を用いた安全性評価が難しい場合はどのように対応するべきでしょうか。
私の見解は、「代謝物の安全性を科学的に評価する大義」に対して、「合成が困難」は評価しなくてもよい理由にならないと考えます。

具体的な対策を幾つか挙げてみます。
① 細胞画分、肝細胞などで代謝物を『生合成』して抽出精製し、標品を提供してはどうか
② あらゆる動物種で、肝以外の試料も含めて、in vitroでの代謝を確認してはどうか
③ 高用量の動物投与で当該代謝物の曝露評価ができないか
④ 持続静脈内投与で曝露量(AUC)を増やして評価できないか
⑤ ヒト試験で、許される大量採血から、代謝物を精製し標品化してはどうか
⑥ 標品の可能性を探り、活性測定で評価できないか
 

化学合成が極めて困難なことを理解し、少量の標品が入手できれば、後は高感度分析でなんとかすることを前提に考えてみました。上記に紹介した対策事例は、全て実際に行った方法論になります。他にも、培養植物細胞のカルス(細胞塊)からS9(9,000xg上清画分)を調製して使用したこと、ウサギのS9の利用なども試みましたが、代謝が進みすぎて実用にならないことも経験しました。

標品の無い代謝物について、ヒトと動物の曝露量を比較するには、それぞれ代謝物のAUCが反映されるように、各時点の血漿を混合してLC/MSで分析しマスピークエリアで曝露量を比較する方法があります。このような結果を申請資料に用いることの是非はどう考えますか。
私の見解は、規制要件的に、分析法の原則は『バリデーション』になり、標品が存在しないと定量分析とは言えないと考えます。前述の手法はスクリーニング試験として有用ですが、代謝物の安全性を直接に評価したとは判断できません。

対策としては、
① ICH-M3(R2)では毒性試験の動物種と臨床試験の曝露の比較を必要とし、方法論の詳細は示されていません。そこで、実際のデータの妥当性を当局と議論することが必要です。

 

 

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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