ラボにおけるERESとCSV【第99回】

2023/03/10 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

国内におけるデータインテグリティ観察所見を引き続き解説する。

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(69)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ BBBB社 2019/11/26  483
施設:製剤工場

今回紹介する483はFDAのInspection Classification Databaseに登録されていない。従って本483はPAI(承認前査察)において発出されたものであろうと推測している。

■Observation 3
ラボにおいて電子記録が使用されているが、電子記録維持の要件を満たしておらず信用かつ信頼できるものであることを保証できない。特に;
① 下記機器が生成したデータを分析者が消去できる。
GC-FID
LC-MS
エンドトキシン測定のマイクロプレートリーダー
② LC-MSが生成したデータをバックアップしていない。
③ 下記機器のデータをバックアップしているが、バックアップが壊れていないことを定期的に確認していない。
•    HPLC
•    GC-FID
•    FTIR
•    UV
 
★解説 ①
「下記機器が生成したデータを分析者が消去できる」について
指摘のポイント
これら機器のオリジナルレコード(オリジナルデータ)は電子記録であり生データの一部である。分析者は不都合な記録の削除や改変の動機を持ちうる。そのような分析者が生データである不都合な電子記録を消去できてしまう。
 
本指摘に関する用語を以下に説明する。
➢ 生データ
「PIC/S GMP 第4章 文書化」における定義
•   品質判定に用いる全てのデータ
GMP事例集(2022年版)」における解説
•   最終結果を得るために使用した元となるデータ
•   最終結果を得るに至った過程を含む記録
•   最終結果を検証することができるもの
•   例:波形電子ファイル、、、、計算や換算等の過程の記録
➢ オリジナルレコード(オリジナルデータ)
「PIC/S査察官むけDIガイダンス 7.5節」における定義
(PI 041-1 2021/7/1)
•   紙であろうが電子であろうが最初に捉えた情報
➢ 真正コピー(True Copy)
•   オリジナルレコードの正確な検証済みコピー
➢ ダイナミックレコード形式(動的記録形式)
•   データ処理、データ解析、データを拡大表示できるような記録の形式。例えば、電子的に維持されているクロマトグラフィのオリジナルレコードの形式
➢ スタティックレコード形式(静的記録形式)
•   紙やpdfの様に、データが固定されており再処理や波形などの拡大表示ができないような記録の形式
 
GC-FIDとLC-MSについて
これらは再解析ができるのでオリジナルレコードはダイナミックレコード形式の電子記録である。品質判定において再解析の内容調査などを行うので、ダイナミックレコード形式のオリジナルレコードである電子記録を生データとして維持しなければならない。データの改ざん動機を持ちうる分析者がオリジナルレコードである電子記録を削除できると指摘を受ける。
 
エンドトキシン測定のマイクロプレートリーダーについて
このマイクロプレートリーダーは再処理や波形などの拡大表示の機能を有していないと推測する。もしそうだとすると、このマイクロプレートリーダーが生成するオリジナルレコードはスタティックレコード形式の電子記録である。スタティックレコード形式電子記録の全ての情報がプリントアウトされるなら、電子記録に代えプリントアウトをオリジナルレコードの真正コピー(True Copy)として維持することでよい。全ての情報には、機器の設定、構成設定、測定パラメータ、メソッド、監査証跡、再測定を含むデータ処理実行記録などの情報が含まれる。
 
スタティックレコードをプリントアウトで維持する場合には、上記のような全ての情報がプリントアウトに含まれている必要がある。不都合な測定結果があった場合、そのプリントアウトもGMP記録として保存されている必要がある。言いかえると不都合な測定結果がもれなくプリントアウトされGMP記録とされていることを証明できなければならない。その証明ができないのであれば、測定に係わる全ての電子記録を維持することが求められる。
 
本マイクロプレートリーダーのプリントアウトには全ての情報がプリントアウトに含まれておらず、プリントアウトはオリジナルレコードの真正コピーとはみなされなかったと推測する。そのため、オリジナルレコードである電子記録の維持が求められたと理解する。
 
FDAの査察においては、スタティックレコードであっても電子記録を維持するよう求められる。その根拠は上述のように考えるとよい。PIC/S査察官むけDIガイダンスの関連部分を以下に紹介する。
 
PIC/S査察官むけDIガイダンス 7.7.2節 (要旨訳)
静的記録がオリジナルデータのインテグリティを維持していることを正当化出来る場合、電子的方法で生成された生データを紙もしくはpdfフォーマットで維持することが考えられる。しかし、医薬品品質のあらゆる面に直接もしくは間接的に影響を与える全てのデータをメタデータを含んで、データ保存プロセスにおいて記録しなければならない。例えば、分析記録の場合、全てのデータには以下のものが含まれる。
a)  生データ
b)  メタデータ
c)  関連する監査証跡と結果ファイル
d)  各分析実行に特有なソフトウェアとシステムの構成設定
e)  任意の生データセットの再構成に必要な全データの処理実行(分析法と監査証跡を含む)
また、印刷された記録が正確な表示であったことを検証した内容を文書化しておく必要がある。この文書化をGMP/GDP適合記録とする必要があり、そのための管理は面倒であろう。
 
上記の7.7.2節をザックリとまとめると以下のようになる。
スタティックレコードのプリントアウトに上記のa) b) c) d) e)が含まれていないのであれば、それらを含んだ電子記録を維持すること。
「FDAの査察においては、スタティックレコードであっても電子記録を維持するよう求められる」と上述したが、PIC/Sも同様に考えていると理解できる。
 
なお、上記で参照した「PIC/S査察官むけDIガイダンス」は法的拘束力のないガイダンスであり、以下の様に記載されている。
•   本ガイダンスに法的拘束力はない。DI不適合の判断は、各国の法律やGMP/GDPを基準とすること(3.7節)。
•   データクリティカリティとデータリスク情報によりリスクに応じた自社の管理レベルを決定すること(5.3.4節)。

 



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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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