GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第65回】

2023/02/03 品質システム

判定について。

判定

1.サッカーワールドカップ1mmの判定

 サッカーワールドカップは、アルゼンチンが36年ぶりの優勝で幕を閉じた。決勝戦は、PK戦までもつれる緊迫したゲームであった。日本チームの活躍もドイツ、スペイン等の格上チームを相手に勝点を上げるなど、目標のベスト8入りを果たせなかったが、日本中に感動を与える試合を繰り広げた。チームマネジメントとして、森保監督の戦略をGMP活動としてのマネジメントに活かすことも可能ではないかと思うが、今回は、日本のスペイン戦での後半、三笘選手のピッチから出かかったボールを折り返し、ゴールにつなげた際の判定について考える。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)がゴールライン付近を撮影するカメラの画像を2分半の時間を要して確認した。競技規則では「グラウンド上または空中でボールがゴールラインまたはタッチラインを完全に越えた時」にアウトオブプレーになると記されている。FIFAは「証拠を集めた結果、ボールの全体が線の外には出ていなかった」との声明を出した。いくつかの写真が報道されていたが、見る角度やタイミングによりボールがアウトしたように見えるものもある。規則通りの判定をするだけだが、その判定が正しく判定するために、どこから見るのか大事な点となる。写真そのものが信頼できるか疑問の声もある。スポーツの試合では、後日判断しましょうと結論を先送りできず、その場の判断が求められる。その判定と根拠となる写真は、データインテグリティとして信頼されるべき管理が必要である。

<判定写真1)

 以前、私は藤沢市野球協会の審判員をしていた。審判は、正しい判定をするためにそのポジションを確保しなければならない。基本的に、塁上の判定では、その送球に対して、直角になるようなポジションをとる。例えば、ホームベース上では、内外野からの送球とランナーのベースへのタッチ、キャッチャーのランナーへのタッチが見やすいポジションとして、3塁からホームベースラインの延長上の位置で確認できるようにする。しかし、キャッチャーの背中越しでタッチの確認ができないこともあるが、ランナーを待ち受けられるポジションが基本的には見やすい位置となる。プロの世界では、ビデオ判定も取り入れられているが、判定者の位置取りも常に考えるべきである。
 多くのスポーツにビデオ等の判定を用いられるようになったきた。しかし、その映像に修正等を加えられることがないことを証明できなければならない。ワールドカップにおいても、写真そのものに対して疑念を抱く声があった。GMPにおいて、生データの取扱いが重要である。生データには、装置からプリントアウトされるものや作業者がその場で装置が示した値等をメモ等に記載したもの、写真など多岐にわたる。作業者が記入したものはその値が正確なものである根拠を示すことが難しい。写真もいろいろと編集が可能なことが多く、写っていたものを消すことができる機能もある。そのため、写真に編集等の手を入れていないことを証明するためにも、撮影者が特定できるようにしておく必要がある。その上で、撮影者が編集等の修正をしていないことを明言することも場合により必要であろう。
 いずれにしても、判定には根拠たるデータが必要で、そのデータが改ざんされていないことを証明することがデータインテグリティを確保することになる。
 

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わる。2017年高田製薬株式会社に入社、大宮工場の製造管理者、品質統括担当参事を経て、2021年より生産本部顧問に就任。同年より中間物商事株式会社品質保証部部長として勤務。
2021年11月より、共和薬品工業株式会社鳥取工場品質保証部長となる。
2022年4月からGMPコンサルタントとして独立したが、2023年2月硬膜動静脈瘻に疾病し、言語障害となった。退院後、自宅にてトレーニングし、完治。8月にネオクリティケア製薬株式会社品質保証部に入社、従来通り活動をしている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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