知的財産の基本から知財ミックスまで【第3回】

2022/08/12 その他

発明の権利化を図るためには、特許出願をする必要がある。

(1)はじめに
前回、特許の保護対象である「発明」について説明しましたが、その発明の権利化を図るためには、特許出願をする必要があります。

いくら斬新な発明を思いついたとしても、頭の中にあるアイデアのままでは特許としては保護されません。我が国は「書面主義」を採用していますので、特許として保護を受けるためには、発明の内容を言語化して書類を作成した上で、特許庁に提出する必要があります。

具体的には、特許出願は、「願書」「明細書」「特許請求の範囲」「要約書」「必要な図面」といった出願書類を特許庁に提出することにより行われます。
この中で、発明の権利範囲を特定する一番重要なものが、「特許請求の範囲」となります。

「特許請求の範囲」がどのようなものなのか、ご参考までに、越後製菓株式会社の特許第4111382号の「特許請求の範囲」(請求項1)と図面を下記に表示します。
この特許は、切餅事件という有名な裁判で争われた、切餅がきれいに焼ける「切り込み」技術に関するものです。この特許権を侵害されたとして、越後製菓株式会社はサトウ食品工業株式会社と最高裁まで争い、サトウ食品側に約8億円の損害賠償が命じられました。

【焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。】

さて、上記の「特許請求の範囲」(請求項1)を一読しただけで理解できる人はなかなかいないのではないでしょうか。「特許請求の範囲」は通常一文で記載され、抽象的でわかりづらいものです。

特許権侵害訴訟では、侵害しているか否かを判断するのに、「特許請求の範囲」を意味のある構成(構成要件)ごとに分説し、それぞれの構成について被疑侵害製品の構成が当てはまるかどうかを判断していきます。

そのため「特許請求の範囲」を作成するときには、将来起こり得る様々な侵害態様を考えながら記載する必要があり、どうしても抽象的でわかりづらいものとなってしまいます。例えば、単に「自動車」と特定せずに抽象的に「移動体」としておけば、「船舶」も権利範囲に含めることができるわけです。


(2)特許出願の流れ
では次に、特許出願の流れについて簡単に説明します。下記の特許審査の流れの参考図もあわせてご参照下さい(図に表示されている金額は、特許庁に納付する印紙代です。)。

1.特許出願
発明の内容等を記載した出願書類を特許庁に提出します。現在は特許出願のほとんどが、電子出願により行われています。

2.方式審査
特許庁が出願書類等の形式的なチェックを行います。電子出願の場合には、出願と同時にチェックされます。

3.出願公開
出願日から1年6ヵ月後に特許庁により、出願の内容が公報として自動的に公開されます。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)というウエブサイトにアクセスすれば、公報の内容は、全世界の人が自由に閲覧できるようになります。
近隣諸国の研究者たちも、日本で公開された特許情報を研究し、さらなる技術改良を進めるという話を聞いたことがあります。現在は、自動翻訳の精度も良くなっていることから、容易に日本の特許情報を入手できるようになっていると思います。

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執筆者について

鈴木 徳子

経歴

ブランシェ国際知的財産事務所 共同代表弁理士。
代々医師の家系に生まれ医学書に囲まれた生活を送ったが、医師にはならずに文系の道を進み知的財産の専門家になった。一橋大学経済学部卒業。現ウォルト・ディズニー・ジャパンでキャラクターのブランディングを担当し、商品化権(著作権や商標権など)に基づくライセンスビジネスに携わる。ディズニー時代に初めて、「知的財産権」という言葉に出合い、その重要性を実感し弁理士になる。その後、外国知的財産サービス会社で大手日本企業(医薬品、化粧品、素材系メーカーなど)の全世界120か国における商標権取得、企業合併に伴う権利移転手続や侵害対応などに携わる。2015年3月事務所開設。大学や各種セミナーで講師も務める。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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