医薬品の技術移転のポイント【第14回】

2022/07/22 品質システム

今回は事前に対策を行って問題発生を防いだケースを紹介する。

7.事前に対応を行った事例 
 過去の失敗事例や情報から事前に対応し、品質問題を起こさないことが一番良い方法です。今回は事前に対策を行って問題発生を防いだケースを紹介します。できれば、技術移管は上手く行くのが当然との認識ではなく、上手くいかないのが当然と思って、トラブルが起きて罰するだけでなく上手く行った場合にはきちんと評価することを経営層は考えて欲しいものです。

1)注射剤製造ラインで水だけを充填し評価する
 ある大手製薬会社で、海外導入品の注射剤で不溶性異物が大きな問題になり、取締役会議の議題にもなり下記の対策を行うことになりました。
改善策:
 相手先の製造ラインで水だけを充填して不溶性異物を評価することにしました。これを行うだけで数百万円のコストがかかりますが、先ずは相手先ラインの不溶性異物のレベルを確認することになりました。
 水だけを充填しても不溶性異物が発生しているとその製造ラインや作業方法、環境に問題があることになります。ここまでやっている企業は少ないのではないと思われますが、原薬が高価な場合は必要かもしれません。

2)注射剤の不良率削減に取り組む(研開からの移管時の品質保証in欧州)
 研究開発部門から移管される新製品の注射剤に不溶性異物の不良率が高いことがわかりました。剤形はシリンジ製剤でした。設備投資コスト削減のため現地でシリンジのフィルム包装を行うことになりました。それまでは日本で不溶性異物の外観選別をする方針で行っていました。海外製造所の日本で求める不溶性異物基準を達成していなかったので、日本で全数異物検査することで、日本の求めるレベルに合致させていました。
 研究開発部門の全数不溶性異物選別での不良率を確認したら約20%だったとのことでした。申請用の安定性試験は良品を選んでいました。研究開発部門の目視選別能力に疑問を持っていましたので、実際は20%より高いのではないかと危惧しました。後で生産の不溶性異物基準で選別すると、50%ほどが不溶性異物の不良品でした。後日、研究開発本部の注射剤の不溶性異物の外観選検査員の能力を生産でのレベルで評価したところ、全員が認定されませんでした。また製剤設計者も認定されませんでした。教育訓練を行い、生産と同等レベルまで高めました。なお不溶性微粒子は問題がありませんでした。
 現地で一次包装(シリンジを表示フィルムで巻き、透明ケース入れ)を行っていました。これでは日本で全数外観選別を行うにはフィルムが貼付され、透明ケースに入れられているので、不溶性異物の外観選別の検出力が低くなり、かつ手間もかかります。しかし、50%の不良では医療現場で不溶性異物が見つかり、苦情となり場合によっては製品回収のリスクもかなりあります。そこで、生産本部長に協力を依頼し、注射剤製造所の異物対策をよく知っている人の海外出張同行をお願いし、欧州の製造所に異物不良率低減に行きました。昔、注射剤の異物試験法確立、自社品の異物評価、注射剤の異物削減を行っていた知識と経験があったので、組織長(当時部長)の私が行くことにしました。

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執筆者について

脇坂 盛雄

経歴 1979年エーザイ株式会社入社、9年間、品質管理と21年間、品質保証を担う。
専門領域はGQP品質保証、注射剤及び固形剤の異物対応、品質リスクの発見と低減対応 ・医薬品/食品の表示校閲、製品回収リスク回避対策 ・逸脱/苦情対応、変更管理(一変/軽微変更)対応。品質保証責任者(品責)、統括部長および理事を歴任し、2013年9月末に退職。
現在は企業のコンサル・顧問を行う傍ら講演会講師、書籍執筆などを精力的に行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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