医薬品の技術移転のポイント【第12回】

今回も引き続き、技術移転時の品質トラブル事例について解説する。
6)導入品の品質評価とその技術対応(欠けと溶出試験対応)
ある製造販売会社の製品を自社で販売することになりました。既に販売されている製品です。このような時は下記を確認します。
・製造販売承認書との齟齬有無
・安定性試験データの評価
・製品苦情の件数と内容
特に問題はありませんでした。当時品質再評価で溶出試験を全ての固形剤に追加する検討が進んでいましたので、その会社に溶出試験の状況を確認しました。「問題ありません」とのことです。そこで参考品の保存サンプルの溶出試験を評価しましたか?と尋ねると「評価しました」とのことでした。そこでデータを見せてもらいました。品質保証は相手の言葉を信じるのではなく相手の言葉の根拠になっているデータを確認することです。
経年品の溶出試験結果に1/12や2/12の判定値を超えているデータがありました。製造販売会社は「日局の溶出試験の判定値は2/12まで適合なので問題ない」と判断しているとのことでした。
日局溶出試験:
最初6T(C)取り溶出試験を行う
→1T判定値を超えると、さらに6T試験を行う
→判定値を超えるのが2Tまでは適合
品質保証は統計的に考えます。つまり、2/12Tが判定値を越えているとすると、いつ3/12Tになるかわかりません。年次安定性で3/12が起き、OOSが確定すると製品回収です。原材料同じ、製造方法同じ、試験は同じだと使用期限の残っている製品全部回収です。かつ物流在庫も同じですから出荷できなくなり、即欠品です。それだけリスクの大きい試験項目なのです。
統計的な考察:
2/12Tの場合;不良率1/6(p)、5/6(q;1-p)
適合する確率
12C0p0q12=1×1×(5/6)12=0.112
12C1p1q11=12×(1/6)1×(5/6)11=0.264
12C2p2q10=66×(1/6)2×(5/6)10=0.264 適合する確率=0.64 64%
1/12Tの場合;不良率1/12(p)、11/12(q;1-p)
適合する確率
12C0p0q12=1×1×(11/12)12=0.352
12C1p1q11=12×(1/12)1×(11/12)11=0.384
12C2p2q10=66×(1/12)2×(11/12)10=0.192 適合する確率=0.93 93%
1/12の場合でも7%不適合になる(1/14ロット不適)可能性があるとのことです。
OOSが出ると、ラボエラー調査をしますが、これはバラツキの結果ですから、明確なラボエラーは見つかりません。製造工程の調査でも問題ありません。頑張って一回くらいはリテストするとします。もしリテストがn=4で設定されていれば下記になります。
n=4全て合格 0.934=0.748 75%適合
逆に25%不適合になる確率だということです。n=6だと不適合の確率は35%になります。
ではどこまで改善をすればよいかは下記になります。
1/18Tの場合;不良率1/18(p)、17/18(q;1-p)
適合する確率
12C0p0q12=1×1×(17/18)12=0.504
12C1p1q11=12×(1/18)1×(17/18)11=0.356
12C2p2q10=66×(1/18)2×(17/18)10=0.115 適合する確率=0.98 98%
OOSでリテストn=4で全て適合 0.984=0.922 92%
OOSでリテストn=6で全て適合 0.986=0.886 89%
すなわち、1/18以下にすれば、
2%(OOSが出る確率)×8%(リテストn=4で不適合が出る確率)=0.0016(0.16%)
ここまで下げられたら十分でしょう。3σの千三つの半分です。
このように統計/確率的にリスクの発生を予測して対応するのが品質管理です。
OOSの結果が出てから慌てて動くのは品質管理ではなくただの素人の対応です。
その製造販売会社のQA長が「安定性モニタリングで判定外が1~2/12個でていても日局の規格に適合しているから問題ない」との考えは品質管理の視点ではなかっただけなのです。
数字を示してようやく理解してもらいました。
このままだと、自社が販売しているときに安定性モニタリングで不適合になり、製品回収と欠品のリスクが生じる可能性があります。「このままだ品質の観点で販売を引き受けることはできません」と伝えました。
製造販売会社はそこで、審査管理課に規格を5%ほど緩めてもらえば問題がなくなるので、それをお願いに行きました。
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