GCP監査入門【第5回】

2022/05/06 臨床(GCP)

今回は、GCP監査に必要な監査手順書について見てみることにする。

 今回は、GCP監査に必要な監査手順書について見てみることにする。監査手順書にはどのような内容を定めておくべきなのか、そしてそれにはGCP省令で必須とされている記載項目、必須とはされていないが記載したほうが良い項目もある。そのあたりを紹介しよう。

治験依頼者が作成する手順書
 GCP省令第4条(業務手順書等)第1項は業務手順書に関する記載であり、治験依頼者は「治験の依頼及び管理に係る業務に関する手順書を作成しなければならない」と記載されている。治験の「依頼」はGCP省令第二章で、治験の「管理」は第三章だということを何度か既に述べている。つまり治験依頼者にはGCP省令の第二章と第三章に関する業務の手順書を作成することがGCP省令で義務付けられているのだ。
 GCP省令第4条と同条ガイダンスには、図1に示すように具体的な例示がされており、この中には監査の実施に関する手順書を作成することが治験依頼者に義務付けられている。この手順書のことを、GCPガイダンス第23条では「監査手順書」と呼んでいる。
なお、図1に示した手順書以外に、治験依頼者としての意思決定手続き、データマネジメント、統計解析、ベンダーの選定と委託、等々の手順書も必要となってくるが、これらについての説明はまた記載があれば紹介しよう。

監査手順書の記載内容
 GCP省令第23条(監査)第1項で、治験依頼者は監査手順書を作成し、これに従って監査を実施しなければならないと定めている。そして同条ガイダンスではこの監査手順書に記載すべき項目について定めている。すなわち、治験のシステム及び個々の治験に対する監査について、①監査の対象、②方法及び③頻度、並びに④監査報告書の様式と⑤内容を記述することとし、さらに⑥監査担当者の要件を当該手順書中に記載しておくこととされている。監査手順書で定めておかなければならない項目のうち、⑥監査担当者の要件については既にGCP監査入門【第2回】で紹介したのでお読みいただきたい。これ以外の5項目について簡単に触れていこう。

 まずは①「監査の対象」。上述のように監査手順書には、治験のシステム及び個々の治験に対する監査について記載することになっている。これらについては既に前回のGCP監査入門【第4回】で紹介した。すなわち、システム監査ではISO9001:1994の品質システムの要素である「組織構造、手順、プロセス及び資源」が監査対象になるだろう。また、GCPが省令として公布される前の局長通知、いわゆる旧GCPの解説となるGCPマニュアルに自主監査の対象が例示されていることも前回紹介したが、これを個々の治験の監査対象として現在もほぼ踏襲している。もっとも、令和はもちろん平成後期の監査担当者は、平成初期の旧GCPを意識しているどころか存在すらご存じない方が多いだろう。

 次は②「監査の方法」である。これは対象によって当然異なるが、簡単に言うとDocument ReviewとInterviewとTourの3点に要約できる。文書・記録であればこれらを閲覧(Document Review)し、その際にあらかじめ準備したチェックリストを用いて文書・記録の適切性を評価する。そしてその文書・記録について疑義を含め、関係者に面談していろいろと聴取(Interview)することが必要になる。資料保管室や治験薬保管庫、あるいはサーバールームなどの施設設備を監査対象にするのであれば、これらの施設を視察(Facility Tour)して確認することが必須になる。Facility Tourの際には室内に設置してある入退室記録や温湿度記録などをDocument Reviewし、保管責任者からInterviewすることになる。このように監査対象によって異なると書いたが、これらの方法を組み合わせて監査を実施する。

 今度は③「監査の頻度」について、システム監査と個々の治験の監査に分けてみてみよう。システム監査は個々の治験に特化したものではなく、複数の治験に関わるシステムを対象とするのが一般的である。例えば上で例に挙げた治験薬保管庫の温湿度や入退室の管理システムを監査対象にするのであれば、監査の頻度は1~2年に1度の定期監査でよいだろう。あるいは、治験統括責任者や記録保存責任者のようなGCP組織を設置している治験依頼者もあるが、この場合は要件を満たした責任者が指名されていることを、やはり1~2年に1度の監査、あるいはシステムが変更や新設されたタイミング(不定期)で確認し評価することになろう。
 個々の治験の監査の頻度は、治験の規模によって異なる。例えば、第1相試験や生物学的同等試験のような短期間の治験の場合は全治験期間を通して1回で良いかもしれない。しかし数年に及ぶ治験の場合は数回に分けて監査を実施する必要があるだろう。例えば、3回に分けて実施するのであれば、前回紹介した事務連絡の「治験に係る文書又は記録」一覧で、治験開始前、治験実施中、治験の終了の各段階に分けて示されている文書記録が、それぞれの段階の監査対象とすることができる。
 

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執筆者について

大場 誠一

経歴

株式会社エスアールディ 信頼性保証室 参与
旧GCP施行当時から国内の製薬企業で試験監査室長としてGCPとGLPの監査を担当。その後の欧州系製薬企業では信頼性保証室長としてGCPとGLPの監査の他、GMPとGPMSPの監査に携わる。そして後の米系CRO(開発業務受託機関)ではQA DirectorとしてGCP監査の責任者。現在は国内CROでGCPと臨床研究の監査、さらにGCP教育やSOPライティングの受託業務を専門としている。またGCPに関連した執筆や多くのセミナーでの講演活動、さらにDVDやe-ラーニングを用いたGCP教育に携わるなど、30年以上にわたってGCPに深く関わり続けている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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