GCP監査入門【第4回】

2022/04/01 臨床(GCP)

個々の治験の監査とシステム監査について説明をする。

 個々の治験の監査とシステム監査について説明しよう。個々の治験の監査については何となくイメージできるだろうが、システム監査の対象となる「治験のシステム」というのが分かりにくい。今回は、個々の治験の監査と旧GCPマニュアル、システム監査とISO 9000、これらの関係を中心に話を進めたい。

個々の治験の監査
 個々の治験に対する監査とは治験実施計画書ごとの監査をいう、とGCP監査入門【第1回】で書いた。しかしGCP省令にもGCPガイダンスにも「個々の治験」や「個々の治験の監査」について定義っぽいことはどこにも書いていない。申請上の重要性、被験者数、治験の種類、被験者に対する治験の危険性のレベル及びモニタリング等で見出されたあらゆる問題点を考慮して行う旨が書かれているのみである。
 GCPに定義されていないのであれば、ここであらためて定義っぽいことを書いてみよう。上述のように、個々の治験の監査とは治験実施計画書ごとの監査をいう。すなわち、治験実施計画書を作成して、実施医療機関に治験の依頼を行い、治験が開始され、モニタリングを実施し、症例報告書を回収して、データの解析を行って総括報告書を作成するという一連の流れが監査対象となる。この監査の基準となる文書、すなわち基準文書は治験実施計画書とGCPと手順書であり、これらを遵守して行われているか否か、また治験で得られた成績の信頼性が確保されているか否かを評価するのが監査の目的である。当然のことながら、治験の依頼と管理を行っている治験依頼者と、治験を行っている実施医療機関が監査対象となる。

 現行のGCP省令は平成9年3月27日に厚生省令第28号として公布されたが、その前身とも言える「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」、いわゆる旧GCPは平成元年10月2日に通知された。そして、現在のGCP省令の解説であるGCPガイダンスと同様に、旧GCPの解説として旧GCPマニュアルというものがあった。現行のGCP省令やガイダンスには監査の対象に関して詳細な説明はないが、旧GCPマニュアルには「自主監査の対象」が例示されている(図1)。旧GCPの時代には医療機関監査は行われていなかったので、「自主監査の対象」は治験依頼者のみであり、また現行のGCP省令には記載されていない社内IRB(治験の適否判定)や治験計画の届出、あるいは現在では補償措置と呼んでいる補償方策、症例報告書と呼んでいる症例記録など、若干の違いはあるものの、現在の監査でもこれがほぼ踏襲されているといえよう。

 ICH E6、いわゆるICH-GCPの最後の項目にEssential Documentsの一覧表がある。答申GCPではこれを「必須文書一覧」と呼び、その後に発出された事務連絡では「治験に係る文書又は記録」一覧と称されようになった。旧GCPマニュアルで「通例、以下の記録等について監査する」と例示された記録等は、現在の「治験に係る文書又は記録」一覧で詳細に掲載されている文書・記録であり、これが個々の治験の監査の対象資料といえる。ここで触れたICH-GCPや答申GCPについては、前シリーズGCP入門【第3回】をお読みになればお分かりいただけるであろう。
 治験依頼者と実施医療機関が監査対象であると先述したが、この「治験に係る文書又は記録」一覧では、文書・記録が治験依頼者と実施医療機関ごとに区分けされて例示されている。ここで「例示」と書いたが、この一覧に記載された文書・記録は作成されることが望ましいものの、必要な記録等が適切になされるのであれば必ずしもこの例に限定されるものではない。なお、「治験に係る文書又は記録」一覧の事務連絡は、医薬品GCPと医療機器GCPで通知されているが、再生医療等製品GCPに関しては現時点では通知されていない。しかし、基本的にはどのGCPでも同じ内容になるはずだ。

 

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執筆者について

大場 誠一

経歴

株式会社エスアールディ 信頼性保証室 参与
旧GCP施行当時から国内の製薬企業で試験監査室長としてGCPとGLPの監査を担当。その後の欧州系製薬企業では信頼性保証室長としてGCPとGLPの監査の他、GMPとGPMSPの監査に携わる。そして後の米系CRO(開発業務受託機関)ではQA DirectorとしてGCP監査の責任者。現在は国内CROでGCPと臨床研究の監査、さらにGCP教育やSOPライティングの受託業務を専門としている。またGCPに関連した執筆や多くのセミナーでの講演活動、さらにDVDやe-ラーニングを用いたGCP教育に携わるなど、30年以上にわたってGCPに深く関わり続けている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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