ラボにおけるERESとCSV【第85回】

2022/01/14 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(55)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

 

■ QQQ社 2019/09/26  483 その1
施設:製剤工場

■Observation 1
A)    電子記録の帰属性を保証出来ていない。スーパーバイザー以下のQCラボ職員がpH計にパスワードが設定されていないゲストアカウントを共用してログインしている。このpH計は製品のリリーステストなどに使用されている。

★解説
ダイナミック・レコードの機器は電子記録が生データとなるので、電子記録を維持しなければならない。生データとなる電子記録を記録保存期間において維持していないとGMP不適合になる。スタティック・レコードの機器である場合は、機器からのプリントアウトや手書きの記録を生データとすることができる。しかし、プリントアウトや手書き記録の場合、不都合なプリントアウトを破棄したり、不都合な手書き記録を破棄して新たな手書き記録を作成することができる。つまり、不都合なデータを隠蔽しなかったことを(良いとこ取りをしていないことを)プリントアウトや手書き記録だけで証明するのは容易ではない。従って、スタティック・レコードの機器であっても、電子記録を保存できるのであれば電子記録の維持が求められるようになってきた。監査証跡がなくても以下の条件であれば、良いとこ取りをしていないことを証明できるからである。
 ①  総ての測定が電子記録に残る
 ②  その電子記録は削除できない
 ③  時刻調整の権限は現場にはない
(この場合、電子記録のタイムスタンプは現場においてバックデートできないので、タイムスタンプの真正性を保証できる)

関連して、PIC/Sの査察官むけデータインテグリティガイダンス PI 041-1の7.7.2節を以下に紹介する。

7.7.2
静的記録がオリジナルデータのインテグリティを維持していることを正当化出来る場合、電子的方法で生成された生データを紙もしくはpdfフォーマットで維持することが考えられる。しかし、医薬品品質のあらゆる面に直接もしくは間接的に影響を与える全てのデータをメタデータを含んで、データ保存プロセスにおいて記録しなければならない。例えば、分析記録の場合、全てのデータには以下のものが含まれる。
 -    生データ
 -    メタデータ
 -    関連する監査証跡と結果ファイル
 -    各分析実行に特有なソフトウェアとシステムの構成設定
 -    任意の生データセットの再構成に必要な全データの処理実行(分析法と監査証跡を含む)
また、印刷された記録が正確な表示であったことを検証した内容を文書化しておく必要がある。この文書化をGMP/GDP適合記録とする必要があり、そのための管理は面倒であろう。

7.7.2節の解説
例えば、電子天秤の記録は静的記録であるので、電子天秤に生成された電子記録をプリントアウトして紙記録として維持していたとする。不都合なプリントアウトを気づかれずに破棄できる場合、良いとこ取りの繰り返し測定をしていなかったことをプリントアウトだけで証明するのは容易ではない。したがって、静的記録であっても電子記録により全ての測定を記録すれば、良いとこ取りの繰り返し測定をしていなかったことを証明できる。静的記録であっても電子記録により全ての測定記録を保存することをお薦めする。

ちなみに、FDA査察においては、静的記録を生成するpH計に対し以下のような指摘がある。
 ◆  FDA 483:2019/1/15 インド
 このpH計は総ての測定結果を電子的に保存できる
 しかし、電子的に保存するように設定されていなかった
 ◆  FDA 483:2019/9/13 日本
 このpH計は測定結果を電子的に保存できる
 しかし、電子的にレビューしていないしバックアップも取っていない
 ◆  FDA 483:2019/9/26 日本 ←本指摘
 pH計においてパワードなしのゲストアカウントを全員が共用している
 そのため、電子記録の帰属性を保証できない
 ◆  FDA 483:2020/9/8 米国
 pH計の電子記録が維持されていない

本指摘の内容は「共有アカウントを使用しているため、電子記録の帰属性を保証出来ていない」という帰属性(ALCOA原則のA:Attributable)を指摘したものであるが、上記を反映し以下のように対応するのがよい。

静的記録を生成する機器であっても、測定結果を電子的に保存できるのであれば、電子的に保存すること。監査証跡がなくても以下の条件であれば、いいとこ取りの繰り返し測定をしていないことを証明できるからである。
 ◆  総ての測定結果が電子記録に残る
 ◆  その電子記録は削除できない
 ◆  時刻調整の権限は現場にはない(時刻の真正性が保証されている)
この場合、電子記録が生データとなるので、測定者情報を電子生データに残すべく個人アカウントでログインしなければならない。

データインテグリティに係わる機能の普及に伴い、データインテグリティ対応レベルに対する査察官の期待は高まる。例えば、FDAのPart 11は1997年に発出されその中で監査証跡が規定されたが、当時は監査証跡機能を持つ機器や装置は少なかったため、監査証跡に係わる査察指摘は皆無であった。その後、監査証跡機能が普及し始めるにともない、2005年ごろより監査証跡がFDA査察において指摘されはじめるようになった。一方、2019年には監査証跡機能つきの電子天秤が発売されるにいたった。監査証跡つきの電子天秤が今後普及するのに伴い、監査証跡機能のない電子天秤は査察指摘を受けるようになるかもしれない。データインテグリティに係わる機能の普及状況を適宜把握することをお薦めする。

上記においてPIC/Sの査察官むけデータインテグリティガイダンス PI 041-1の7.7.2節を紹介したが、このPIC/SガイダンスPI 041-1の取扱いについて以下に説明しておく。
 

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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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