ラボにおけるERESとCSV【第83回】

2021/11/12 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(53)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

 

■ PPP社 2019/09/13  483 その4
施設:バイオ原薬工場

■Observation 1 D)
品質部門はオリジナル電子生データとオリジナル電子監査証跡をレビューしていない。電子生データをレビューし全てのデータが報告され、いかなるデータも隠されておらず全てのデータが正確であることを保証することなく、製品のリリース承認を行っている。

★解説
指摘1:
品質部門(Quality Unit)はオリジナル電子生データとオリジナル電子監査証跡をレビューしていない。


Observation 1 C)において「HPLCに使用されているCDS」と記載されているので、このObservation 1 D)の対象機器はHPLCであろうと推察して解説する。また、品質部門(Quality Unit)との記載は、QCとQAを分けずに記載しているものと判断し、本解説においてはQCとQAに分けて説明する。

QCラボにおけるデータインテグリティ対応として以下のレビューが重要である。

  • 試験ごとのデータレビュー
  • QAによる監査証跡レビュー

HPLCはダイナミック・レコードであるので、そのデータレビューは監査証跡を含む電子記録により行う必要がある。ダイナミック・レコードの機器をプリントアウトによりデータレビューしていると指摘される。

  • HPLCはダイナミック・レコードの機器とみなされ、ダイナミック・レコードの機器においては
    • 生データは電子記録であり
    • 電子記録を生データとして維持しなければならず
    • 維持する電子記録は、ダイナミック・レコード形式のオリジナル・レコードでなければならない
    • データレビューは、生データである電子記録に対して行わなければならない
  •  従って
    • HPLCにおいては、メタデータである監査証跡を含む電子生データに対してデータレビューを行うべきである
    • HPLCにおいて、機器からのプリントアウトに対してデータレビューを行っているのは不適切である

このデータレビューは分析者以外のQC職員が試験ごとの日常データレビューとして実施するのが一般的である。この試験ごとの日常データレビューは以下のように実施する。

  1. 試験ごとのデータレビュー
  • ダイナミック・レコードは電子記録をレビューすること
    たとえば
    • 良いとこ取りをしていないことを監査証跡により確認
    • 波形や画像の拡大によるデータ精査
    • 自動および手動の解析内容を精査
  • 監査証跡と電子記録により下記観点でレビューすること
    • 権限なくデータやパラメータが変更・削除されていないか
    • 使用したパラメータは正しいか
    • 不都合な事象を隠蔽していないか
    • 正当な理由なく繰り返し測定していないか
      (繰り返し測定の妥当性を記録により確認)
    •  試し打ち(テストインジェクション)は妥当か
    • 正当な理由なく手動解析/再解析をしていないか
    • 手動解析/再解析の開始条件は規定を満たしているか
    • 手動解析/再解析の内容は妥当か
    • シングル・インジェクションは妥当か など
  • 監査証跡をレビューした記録を残すこと
    • どの監査証跡をいつ、誰が確認したかが自動記録されないことがほとんどである
    • 確認した監査証跡をハードコピーやPDFでデーターレビュー記録に添付することが考えられるが、そこまで実施しなくても査察指摘は受けないと思う
    • 「規定に従い監査証跡を確認した」との一筆を残すことをお薦めする

上記のデータレビュー観点をSOPに規定するのみならず、データレビューチェックシート等に記載しておくと確実なデータレビューを保証でき、査察官も安心する。

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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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