GCP入門【第22回】

GCP省令第55条について解説をする。
GCP省令第55条(緊急状況下における救命的治験)
GCP入門【第20回】で紹介した第50条では、患者さんを治験に組み入れるには、あらかじめ文書により説明を行い文書により同意を得なければならないとなっていた。しかし、ここで紹介する第55条は、この「あらかじめ」が不可能な治験を実施しようとする場合に満たすべき条件を定めた規定である。言いかえれば、文書による説明と同意がなくても治験を開始することができる条件を定めている。
どのような場合かというと、条文見出しのように「緊急状況下にある救命的治験」の場合ということになる。具体的には交通事故や心筋梗塞や脳血管障害などのように、意識が消失している被験者を対象とする治験である。このような状況において、①被験者となるべき者に緊急かつ明白な生命の危険が生じている、②現在における治療方法では十分な効果が期待できない、③被験薬の使用により被験者となるべき者の生命の危険が回避できる可能性が十分にあると認められる、④予測される被験者に対する不利益が必要な最小限度のものである、⑤代諾者と連絡が取れない、というのが条件となる。
そうは言っても、このような条件がそろっていることだけで「あらかじめ、文書説明、文書同意」が免責されるわけではない。第7条に従って治験実施計画書に、治験に組み入れる要件を明記する必要がある。さらに、効果安全性評価委員会の条文である第19条には規定されてはいないものの、効果安全性評価委員会の審議項目とすることが答申GCPには記載されていることから、やはり効果安全性評価委員会を設置して審議する必要があろう。
第55条第1項では、このような諸々の条件が整った場合に、同意を得ずに治験に参加させることができるとしている。その一方で第2項では、速やかに説明を行って同意を得なければならない、と第1項と矛盾したような記載となっている。これはどういう意味かというと、被験者に「意識がない場合は」同意を得ずに治験に参加させることができるが、「意識が回復したら」速やかに説明を行って同意を得なければならないという意味である。さらに、「代諾者と連絡が取れない場合は」同意を得ずに治験に参加させることができるが、「代諾者と連絡が取れるようになったら」速やかに説明を行って同意を得なければならないという意味でもある。
この第2項の趣旨からは、被験者の身元が明らかでない者を治験の対象としないことと同条ガイダンスで述べている。つまり、緊急搬送された患者の身元について何ら情報がない(身元情報を得られる可能性が全く考えられない)場合は、治験への参加は見送るべきだということである。緊急搬送されてきた人が身元不明だったら救命的治験には参加させない(できない)ということが、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に従っているということなのだろうか、凡庸な私の倫理観では疑問なのだが。
本年(令和3年)7月のGCPガイダンス改正で追記されたことがある。前述の「⑤代諾者と連絡が取れない」という記載が「代諾者から同意を得ることができない」に替わり、代諾者と連絡は取れるが文書による説明と文書による同意が不可能な場合には、代諾者に対し治験参加の意思を確認することで治験に参加させることができる旨が、注意書きとして追記された。つまりそのような場合には「文書」ではなく、口頭での「意思確認」ということを許容するということであろう。
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