再生医療等製品の品質保証についての雑感【第16回】
2020/08/07
再生医療

はじめに
本稿では、再生医療等製品を製造する施設(構造設備)の中で、現状で無菌操作等区域として多く採用されている安全キャビネットの運用上での課題について、雑感を述べさせていただきます。今さらのことですが、安全キャビネットは、クリーンルームの「重要区域」としては特殊であるため、その特性を留意の上使用することが望ましいと考えます。無菌操作等区域としての安全キャビネットの設置および運用については、経済産業省/AMEDの開発ガイドライン「再生医療等製品の製造所における安全キャビネットの設置と維持管理に関するガイドライン2019(手引き)」をご参照ください。
● 無菌操作等区域としての安全キャビネットの取り扱い
前回お話ししたように、自己由来細胞・組織の加工を前提とした再生医療等製品製造の製造では、作業者の安全確保などを考慮し、P2レベルのバイオセーフティが要求され、グレードAの無菌操作等区域に安全キャビネットが多く採用されています。一方で、安全キャビネットはクリーンルームの区域としては非常に脆弱な環境であり、多くの課題が生じます。すなわち、高清浄度を管理する区域の仕様では、一番望ましいことは物理的な隔壁、その次が陽圧管理であり、その補助として気流(風向き)管理が要求されると考えます。これに対し安全キャビネット(市販品)は、開放空間を有し低清浄度区域(グレードBの清浄度管理区域)から無菌操作等区域へ直接介入を行います。また、両者の清浄度レベルが異なりますが、エアロック等の緩衝区域もありません。一般的に、マウスホールなどの異なる清浄度レベルをつなぐ開放空間は差圧管理を行い低清浄度の雰囲気が高清浄度側に入らないように(気流を)調整しますが、安全キャビネットは区域内のバイオハザード封じ込めのため差圧管理は行っておらず、0.45 m/s程度の下降流とエアバリアのみという、クリーンルームとしてはどちらかと言えば望ましくないゾーニング設計となっています。(むしろバイオハザードを放出しないため、設置空間の雰囲気を吸入する陰圧仕様と言えなくもないと認識します。)そのため、作業者の手の出し入れなどの動作によりエアバリアが一時的に破綻する場合があり、清浄度管理区域内のパーティクルを含む雰囲気が無菌操作等区域内に流入するリスクがあります。
作業者は、これらの安全キャビネットの特性を理解し、自身の正面のクリティカルゾーン(培養容器のフタを開放する重要な領域)を適切に守るため、ゆっくりと肩・腕を動かすこと、腕でエアバリアの吸気口を遮らないこと、手がエアバリアを往復しないことに留意する必要があります。また、安全キャビネットの特性上、無菌操作等区域内の下降流は床付近では前後流となり、左右の雰囲気が混じりあうことはありません。そのため作業者は腕の出し入れを正面(クリティカルゾーン)より両端に外れた位置より行い、ピペットの先端など無菌が担保されたもののみをクリティカルゾーンに挿入する形を維持することで、より安定して無菌操作を実施することが可能となります。安全キャビネットを採用した構造設備において安定的に無菌操作を実施するためには、これらを理解した操作手順と作業者への適切な教育訓練は不可欠です。
あと、これは、あまりにも常識であり、蛇足であると信じたいですが、安全キャビネットは24時間連続稼働することが前提で、工程(無菌操作毎)にオン/オフを繰り返す運用はできないと考えています。理由として、細胞加工(培養)を行う製造で工程は1日~数日おきで継続的に実施されるため、細胞加工を行う無菌操作環境は、医薬品製造のように工程ごとに構築を行うのではなく、一定期間継続して運用し続けます。HEPAフィルターは一定以上の気流を通し続けることで継続的に清浄空気の質を保証できる特性のため、工程終了後に安全キャビネットをオフにすれば、その時点で無菌操作環境はブレイク(管理終了)します。もちろん、安全キャビネットを再びオンにして数分もすれば再び同じ環境に復帰しますが、一旦ブレイクした環境は清掃だけ行えばよいとはいかず、環境モニタリングを再開し評価結果を得なければ無菌操作環境が保証できません。したがって、継続的に工程を実施することは難しいと考えます。安全キャビネットは、薬機法下では当然常時稼働であると認識しますが、再生医療等安全性確保法下でも同様の運用が行われることが望ましいと考えます。
本稿では、再生医療等製品を製造する施設(構造設備)の中で、現状で無菌操作等区域として多く採用されている安全キャビネットの運用上での課題について、雑感を述べさせていただきます。今さらのことですが、安全キャビネットは、クリーンルームの「重要区域」としては特殊であるため、その特性を留意の上使用することが望ましいと考えます。無菌操作等区域としての安全キャビネットの設置および運用については、経済産業省/AMEDの開発ガイドライン「再生医療等製品の製造所における安全キャビネットの設置と維持管理に関するガイドライン2019(手引き)」をご参照ください。
● 無菌操作等区域としての安全キャビネットの取り扱い
前回お話ししたように、自己由来細胞・組織の加工を前提とした再生医療等製品製造の製造では、作業者の安全確保などを考慮し、P2レベルのバイオセーフティが要求され、グレードAの無菌操作等区域に安全キャビネットが多く採用されています。一方で、安全キャビネットはクリーンルームの区域としては非常に脆弱な環境であり、多くの課題が生じます。すなわち、高清浄度を管理する区域の仕様では、一番望ましいことは物理的な隔壁、その次が陽圧管理であり、その補助として気流(風向き)管理が要求されると考えます。これに対し安全キャビネット(市販品)は、開放空間を有し低清浄度区域(グレードBの清浄度管理区域)から無菌操作等区域へ直接介入を行います。また、両者の清浄度レベルが異なりますが、エアロック等の緩衝区域もありません。一般的に、マウスホールなどの異なる清浄度レベルをつなぐ開放空間は差圧管理を行い低清浄度の雰囲気が高清浄度側に入らないように(気流を)調整しますが、安全キャビネットは区域内のバイオハザード封じ込めのため差圧管理は行っておらず、0.45 m/s程度の下降流とエアバリアのみという、クリーンルームとしてはどちらかと言えば望ましくないゾーニング設計となっています。(むしろバイオハザードを放出しないため、設置空間の雰囲気を吸入する陰圧仕様と言えなくもないと認識します。)そのため、作業者の手の出し入れなどの動作によりエアバリアが一時的に破綻する場合があり、清浄度管理区域内のパーティクルを含む雰囲気が無菌操作等区域内に流入するリスクがあります。
作業者は、これらの安全キャビネットの特性を理解し、自身の正面のクリティカルゾーン(培養容器のフタを開放する重要な領域)を適切に守るため、ゆっくりと肩・腕を動かすこと、腕でエアバリアの吸気口を遮らないこと、手がエアバリアを往復しないことに留意する必要があります。また、安全キャビネットの特性上、無菌操作等区域内の下降流は床付近では前後流となり、左右の雰囲気が混じりあうことはありません。そのため作業者は腕の出し入れを正面(クリティカルゾーン)より両端に外れた位置より行い、ピペットの先端など無菌が担保されたもののみをクリティカルゾーンに挿入する形を維持することで、より安定して無菌操作を実施することが可能となります。安全キャビネットを採用した構造設備において安定的に無菌操作を実施するためには、これらを理解した操作手順と作業者への適切な教育訓練は不可欠です。
あと、これは、あまりにも常識であり、蛇足であると信じたいですが、安全キャビネットは24時間連続稼働することが前提で、工程(無菌操作毎)にオン/オフを繰り返す運用はできないと考えています。理由として、細胞加工(培養)を行う製造で工程は1日~数日おきで継続的に実施されるため、細胞加工を行う無菌操作環境は、医薬品製造のように工程ごとに構築を行うのではなく、一定期間継続して運用し続けます。HEPAフィルターは一定以上の気流を通し続けることで継続的に清浄空気の質を保証できる特性のため、工程終了後に安全キャビネットをオフにすれば、その時点で無菌操作環境はブレイク(管理終了)します。もちろん、安全キャビネットを再びオンにして数分もすれば再び同じ環境に復帰しますが、一旦ブレイクした環境は清掃だけ行えばよいとはいかず、環境モニタリングを再開し評価結果を得なければ無菌操作環境が保証できません。したがって、継続的に工程を実施することは難しいと考えます。安全キャビネットは、薬機法下では当然常時稼働であると認識しますが、再生医療等安全性確保法下でも同様の運用が行われることが望ましいと考えます。
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