再生医療等製品の品質保証についての雑感【第17回】

2020/09/04 再生医療

水谷 学

はじめに
 本稿では、無菌操作等区域で培養容器を操作する再生医療等製品製造において、それなりの製造ボリュームを考慮した商業生産における、製造施設(構造設備)設計の考え方について、雑感を述べさせていただきます。無菌操作等区域での工程切り替え(チェンジオーバー)については、2019年12月に公示された、経済産業省/AMEDの開発ガイドライン「再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造におけるチェンジオーバーに関するガイドライン2019(手引き)」をご参照ください。


● あらためて、商業生産用としての細胞加工施設の設計と運用について考えてみる
 薬機法における製造(GCTP省令)において、最も重要となるのが、安全性に関する品質の確保であり、すなわち、製品の無菌性の確保です。そのため、再生医療等製品製造では、無菌医薬品の無菌操作法による製造と同様に、無菌操作環境の構築と維持、およびその確認(PST)が重要となります。そのため、構造設備において重要となるのは、製品の無菌性を担保するためのバリアであり、一番望ましいものは物理的な隔壁となります。製品に対して物理的な隔絶を伴うバリアとしては、培養容器の開栓等の開放を生じない、バイオリアクタや培養タンクのような容器密閉型(閉鎖式)と、開放を伴う培養容器と無菌操作環境を組み合わせた筐体密閉型(閉止式・開放式)に分類することができます。
 現状では3D培養のような閉鎖系の培養容器を用いた工程は非常に限られるので、再生医療等製品の製造工程は、培養容器の開放を前提とした筐体密閉型の構造設備が主流となっています。生きた細胞を用いた製造では、必要によりバイオセーフティレベルを考慮する必要があり、汎用性を考慮し、開放式の筐体では安全キャビネットが、閉止式の筐体ではアイソレータシステムが採用されることが多いと考えます。
 構造設備の清浄度レベルは、一般的に、グレードAの無菌操作等区域から、グレードB、グレードC、グレードDと段階的に設定されます。開放式での操作は、作業者が直接グレードAに干渉するため、その設置区域は原則グレードBが要求されます。これに対し、筐体内が作業者より発生する微粒子の影響を受けず、かつ除染機能付きパスボックスのような適切に清浄化可能な導入手段を有する、閉止式筐体の設置環境は少なくともグレードBを省略できます。(指針における設置環境はグレードD以上。)開放式と閉止式のいずれかが優れているのではなく、例えばバッチごとに状態の異なる原料よりプライマリ培養を行う製造では安全キャビネットが、セルバンク化された原料細胞を用いたロットを形成する製造ではアイソレータシステムが、というようにリスクベースでより適切なものを採用できる選択肢と認識しています。

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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