細胞加工施設を運用するキャリアの謎【第4回】

2019/12/20 施設・設備・エンジニアリング

 突然古い話をして恐縮だが、ずいぶんと昔ベストセラーとなった『頭の体操』というシリーズがある(光文社刊、多湖輝著)。どうやら今もベスト版が書店にはあるようだが、このオリジナルとなった第1集(1966年初版)の問題にかかる、父親とのやりとりを私はいまだによく覚えている。問題は、こうである。
 「猟師が小屋を出て南に10km歩いた。それから向きを変えて、西に10km歩いた。それからさらに向きを変えて、北に10km歩いたら、自分の小屋に戻ったという。無論、小屋の位置は最初から変わっていない。こんな妙なことがあり得るだろうか。」
 私は当時小学生だったのだが、本を読んだ父は(註:発刊された当時購入したのではなく、古本だったと思うので年齢を計算しないように)この問題を唐突に娘に振ってきたのだった。なんの前振りもなかったので、改めて考えてみると「なに考えてるんだろう」と思う行為だが、娘は真剣に考えて、ひとつの答えを出してみた。
 この問題の正しい答えは、「猟師の小屋は北極点に建っていた。」である。ほおなるほど、というところなのであるが、私の答えは「小屋が10km四方で、猟師は小屋の周りをぐるっと回っていた」というものだった。そしてこれを聞いた父は、たいそう喜んだのだ。
 実は本書内には、正しい答えとは別に、私の答えた内容も「アリ」だと記載されていた。「それはもう小屋じゃないけどね!」という注釈付きだったが、論理的に考えれば、設問は元の位置に戻った、とは書いておらず、自分の小屋に戻った、と書いてあるだけだから、十分成立している(ぶっちゃけ国際法上、そんなところに猟師が小屋を建てるのだって非常識です)。そんなわけで父は
「あり得ないと思える条件に対して、これなら筋は通る、という仮説を自分で立てられるのはいいことだ。」
 そう言って(ミステリ好きらしい見解で)喜んだ。今も私の頭の中には、10km四方の小屋が北極点に建っている。

 ▽真実はいつもたいてい、ひとつではない
 さて、再生医療と問題解決の話をしていたはずが、なんでこんな出だしになったかというと、たびたび行うセミナーやら講義やらで質問を受ける中で、まだまだ細胞加工の「正しさ」を要求されるケースが多く、ふとこの問題を思い出したからだ。

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執筆者について

鮫島 葉月

経歴 一般社団法人免疫細胞療法実施研究会事務局、株式会社日本
バイオセラピー研究所 事業推進部部長
慶応義塾大学大学院医学研究科(修士)修了後、2008年株式会社セルシードに入社。再生医療に係る臨床用細胞加工物の開発および品質保証を担当し、当時の細胞培養加工施設の運用整備(GMP準拠)に携わる。2012年(株)日本バイオセラピー研究所に入社、再生医療関連法に同社を適応させ、特定細胞加工物の製造許可を取得。新規の製造施設設計と運用構築、文書策定等を行い、年間3000バッチ以上の特定細胞加工物を製造する細胞加工施設の施設管理責任者を担っている。
一般社団法人免疫細胞療法実施研究会においては、研究会事務局として、再生医療等を行おうとする医療機関向けに申請サポートデスクを運営。すでに200以上の計画策定を支援している。
また当該法人にはICTA特定認定再生医療等委員会を設置し、委員会事務局として再生医療等の審査対応を行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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