細胞加工施設を運用するキャリアの謎【第1回】

私は現状、細胞培養加工施設と呼ばれるハードウエアに関わることが多く、専門分野を問われた際には、僭越ながら再生医療系の施設・製造管理と答えさせていただいている。実際、略歴にそう書いてあるはずだ。前回は施設をネタに、うっかり連載までやっている。
しかし内心、とっても僭越に思っている。何が専門、と自分に突っ込んでいる。さらにいえば「どこでこういった勉強をされたのですか? 理工系ですか、あるいは医学系で?」なんていう質問は鬼門でしかない。
 だって私は出自が文系だからだ。あまつさえ文学部で、哲学科だ。おまえの人生はどうなっているのか、と聞かれたら、人生ってどうなっているんでしょうねとしか答えようがない。

 今、専門人材不足に悩みつつ、教育にも力を入れ始めている「再生医療」であるが、では現在施設の専門家みたいな顔をしている人間は、どのジャンルで仕事をしてきたのか。なにを勉強してきたのか。たまに尋ねられるそんな個人的情報を絡めつつ、本稿では再生医療分野のキャリアについてつらつら書いていくが、個人的情報の部分はあまりに特殊事例であるため、まったくなんの参考にもならないことは先にお断りしておく。もっとも、真似してはいけませんと注意書きなどせずとも、そんな奇特な方はいないだろうから、その点は安心しているのだが。

▽再生医療の人材不足とは
 まず今回は前提条件として、再生医療分野において課題となっている、人材不足について触れておきたい。
 再生医療は比較的新しい分野で、まだまだ専門人材が限られており、法的にも人材が豊富な「薬事」と根本的な部分に差異が生じていることもあって、既存分野からの人材の流通が上手くいっていないのが実情だ。現在、再生医療そのものの教育に力を入れ始めた向きもあるが、そもそもマーケットが小さいためにどんどん人材が集まる、という状況にもなっていない。
 もともと本邦の再生医療と呼べるものは、細胞培養技術の分野から発展している。このため初期の再生医療分野では、スキャフォールド(支持体)や器材開発といった、理工、ケミカル分野の人材が多かった。移植に使える素材や人工臓器、人工血管等の研究は医工学の分野で花開いてはいるが、現時点での再生医療ではむしろ医療としての実用化の観点から「臨床技術」にポイントがスライドしてしまったのが実情だろう。ここが、再生医療の「薬」とは異なっている部分だ。医療提供と技術が一体不可分なために、再生医療ではどうしても医師の力が必要なのだ。
 薬剤であれば、適切な判断基準に基づくかぎり、どんな場所のどんな医師でも処方が可能だ。だから製薬会社は製薬会社として良い薬を作れば良いし、医師は医師で臨床に力を注げばよい。しかし再生医療はいまだ、どんな医師でも行えるというものではない。移植医療と同様、細胞の体内でのふるまいを理解した上で、適切に投与できる力量が求められる。そして同時に、投与される細胞自体が適切に管理されている必要があり、この「管理」には勿論細胞培養の技術理解が必要だが、医師がどのように細胞を扱い、投与に至るかの理解も含まれる。このように、きわめて専門性の高い2つの集合の重なった部分に、再生医療は成立している。
 ストレートな物言いをすれば、もうこの時点で人材が豊富なわけはない。
 ゆえに再生医療が本当に花開くのは、他家細胞治療が可能になり、細胞製品を薬剤と同様の「一定の扱い」におけるようになったとき、と言われている。それはそうかもしれないが、ならばそこまでのステップとされる「自家」の再生医療では、延々と人材不足にあえがなければならないことになってしまい、とてもつらい。
 結局、「食えない」分野では人は来ないため、人材はマーケットに依存するのだ。専門性が極端に高い上にマーケットが小さい現在の再生医療は、なかなか困難な道のりにある。

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