実践! 医薬品開発のプロジェクトマネジメント【第1回】

2015/05/26 その他

 プロジェクトマネジメント(PM)について体系的に学ぶための教科書としては、『PMBOK®(Project Management Body of Knowledge)』が一般的に高い評価を得ている。しかしながら、『PMBOK®』の内容は、その版を重ねる毎に「医薬品開発のPM」との乖離が目立つようになってきたと感じる。
 この乖離は、製薬業とそれ以外の産業との業態の違いによるところが大きいのではないだろうか。本シリーズでは、「医薬品開発のPM」について、可能な限り筆者の経験に基づいて、エピソードを交えながら紹介したい。各論に入る前に、今回は医薬品開発の特異性について思いつくままに列挙する。
 

● 分からないことが多過ぎる
 医薬品開発はヒトを対象にしていることもあり、複雑で分からないことが多い。各種情報を集めてGo/No Goの意思決定などの判断をするが、曖昧な部分が実に多い。この曖昧さをどのように判断するかがPM担当者の腕の見せ所である。ちなみに、ある低分子の化学物質が医薬品として製品になるまでの成功確率は3万分の1程度であり、臨床試験(治験)に入ってからでも8分の1程度である。この確率から考えて、人生で一つや二つのプロジェクトでも成功させれば上出来である。

● 長期間を要する
 ヒトに直接的に働きかける製品であることから、多岐多様な観点から有効性・安全性を吟味せねばならず、製品に仕上げるまでには長い期間と多額の費用が必要である。また、臨床試験(治験)においては、工程を入れ替えることは勿論、工程を並行して進めることが難しく、投与期間の制約もあって人海戦術による期間短縮の効果も大きくはない。ちなみに、通常、製品化までには少なくとも10年前後の年月が掛かり、PM体制の維持に格別の配慮が必要である。PMに関わる人財は一つのプロジェクトに10年前後も関わる場合も多い。長期間、多額の費用が掛かることから、他の製品に比べてプロジェクト間の開発の優先度付けも重要になる。

● 多額の費用が掛かる
 日本の製薬業は、研究開発費の対売上高比率の平均が一般製造業の3~5倍と膨大であり突出している。この研究開発費をラインが持つか、プロジェクトが持つかが課題であり、さらに年度毎の予算とプロジェクト全体の予算をどのように執行するかが課題となる。

● 人類共通の国際製品である
 遺伝子多型による代謝酵素活性等の相違により、主作用と副作用の人種間・個人間の相違や投与方法・投与量の相違などはあるものの、基本的には人類に共通して使用されるものである。なお、一般的には、人種差よりも個体差の方が大きいと言われている。
 したがって、効率を考えると、日本人のみを対象とした開発ではなく、グローバルな視点での開発が必要である。さらに現在は、研究開発費の高騰からグローバルPMが必須となっている。

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執筆者について

熊谷 文男

経歴 筑波大学大学院客員教授、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、東京薬科大学非常勤講師
1975年 中外製薬(株)入社。研究開発、プロジェクトマネジメント、人財育成などの業務を経験。米国駐在時には、国際開発も担当。国公私立大学、各種学会・セミナー、大手企業での講演や執筆は多数。現役水泳選手及びスキンダイビングインストラクター。製薬企業米国駐在員OB/OG会「アメリカファルマ会」会長、世界の難病の子供たちを救うNPO「荻田修平基金」 理事、就活支援組織「メディカルカレッジ」アドバイザリーボードメンバー、医薬品業界における「社会人基礎力研究会」アドバイザー、幼稚園理事長・園長、総合旅行業務取扱管理者、等。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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